はじめに

 腹膜透析(peritoneal dialysis:PD)は血液透析(hemodialysis:HD)に比較して心血行動態に対する影響が少なく,心機能の低下した透析患者に適した血液浄化法である。しかしながら,HDと同じく心血管系合併症による脱落例も多く,今回,PD症例での心不全,心肥大,心弁膜症について検討した。
心不全,心肥大について
 PDが長期になるにつれ心肥大が進行し,かつ,左室収縮機能の障害されている症例が多くなる。PDは透析歴が長くなると,残存腎機能が低下し(尿量の減少),また腹膜機能の劣化により除水能も低下する。その結果,ナトリウムと水が蓄積し,体液過剰(容量負荷)となり,心不全が発症する。心不全発症に体液過剰による高血圧も関与する。PD症例での心肥大発症機序を図1に示したが1),2Lの透析液の腹腔内貯留は心機能に悪影響を与えないことが示唆されている。
 心肥大の初期は拡張能が障害されているが,過剰な負荷が長期間持続すると心肥大がさらに進行し,心筋細胞は虚血に陥り,収縮能が低下することにより,心不全が発症しやすい状態となる。心肥大を有するPD症例では心筋の線維化が強く,ナトリウム利尿ペプチド(ANP,BNP)が上昇し,MIBG心筋シンチグラフィーから心交感神経機能が,BMIPP心筋シンチグラフィーから心筋脂肪酸代謝が障害されていることが示唆された(表)2)。さらにPD症例の心不全発症には,脂質代謝,カルシウム・リン代謝ならびに糖代謝異常を背景にした冠動脈硬化による虚血性心疾患,石灰化による心弁膜症,大動脈硬化,低カルニチン血症による心機能低下,心筋へのアミロイド沈着などが関与している3)
 心不全の診断としては呼吸困難,浮腫などの臨床症状のほかに,胸部X線検査(心拡大,butterfly shadow),心電図(心筋梗塞などの虚血性心疾患,不整脈,心肥大の診断),心エコー(心機能ならびに心嚢液貯留の評価),ナトリウム利尿ペプチドの測定などを行う。
 治療としては体液過剰状態であれば,まずこの病態を是正することが不可欠である。ナトリウム,水制限とPDによる限外濾過量を増加させ,体液過剰状態を改善する。このような治療にもかかわらず,体液過剰が是正されない場合にはECUMの併用も考慮する。また,高血圧を合併しているようであれば,ACE阻害薬,アンジオテンシンII受容体拮抗薬,カルシウム拮抗薬,α 1受容体遮断薬を投与する。なかでも心筋リモデリングを重視するならば,ACE阻害薬,アンジオテンシンII受容体拮抗薬が第一選択薬となる。また,エリスロポエチン使用によるヘマトクリット値30%以上を目標とした腎性貧血の治療,L-カルニチンの投与も有効と思われる3)


心弁膜症ならびにその手術適応について
 透析症例では弁の石灰化が多い4)。後天性であり,先天性,感染性に比較して弁へのdystrophic calcificationにより発症することが多い。弁輪から弁尖にかけて石灰化が進行し,弁尖の癒着が認められるPD症例もある。大動脈弁と僧帽弁に病変を認めることが多く,なかでも僧帽弁閉鎖不全症(mitral regurgitation:MR)と大動脈弁閉鎖不全症(aortic regurgitation:AR)の頻度が高い。僧帽弁狭窄症(mitral stenosis:MS)と大動脈弁狭窄症(aortic stenosis:AS)はMR,ARに比較して少ない。特に,除水能が低下し,心拡大をともなう心機能低下PD症例では弁輪が拡大し,ドライウエイトによって増減する機能的なMRの多いことを念頭に置く必要がある。なお,弁石灰化が認められる症例では冠動脈などの血管,刺激伝導系,心筋に石灰化が観察されることが多く,予後に大きな影響を与えている。
 PD症例52名(慢性糸球体腎炎44名,糖尿病性腎症 8 名,平均年齢52歳)を検討すると,22名(42.3%)に弁の石灰化が認められ,10名(19.2%)が僧帽弁に,8 名(15.4%)が大動脈弁に,4 名(7.7%)が両弁に石灰化を有していた(図2)。PD症例の僧帽弁石灰化の頻度はHD症例の10〜40%と同程度であるが,大動脈弁の石灰化はHD症例の28〜55%と比較すると少なく,大動脈弁での石灰化機序が透析方法により異なることが示唆された。恐らく,HD症例では内シャントによる心送血量の増大がpeak flow velocityの増加と乱流を生じさせ,大動脈弁にmicrofractureを形成し,弁に線維化と石灰化をもたらした可能性が高い5)
 従来からPD症例での弁石灰化に加齢,透析期間,高P血症,Ca×P上昇ならびに副甲状腺機能異常の関与が報告されているが,近年,炎症のかかわりが注目されるようになった5)。弁石灰化が認められるPD症例ではCRP,炎症性サイトカイン,フィブリノーゲン,リポ蛋白(a)[Lp(a)]が上昇し,アルブミンが低下し,弁の石灰化に炎症の関与が示唆された(図3)。粥状動脈硬化と同じく,酸化LDLならびにLp(a)の弁への沈着とともにマクロファージとT細胞が浸潤し,次いでオステオポンチンが産生されることにより,弁に石灰化が生じる機序が提唱されている6)
 診断は聴診を中心とした理学的所見とドプラー心エコーによる僧帽弁,大動脈弁での圧較差,弁口面積の計測が重要であり,弁口面積を測定するために経食道エコー,MRIが行われることがある。
 MSでは弁口面積が1.5 cm2以下で心不全を有する症例,塞栓症の既往のある症例,肺高血圧を有する症例で外科的治療の適応がある。経皮的経静脈的僧帽弁交連切開術はMRが認められず,左房内に血栓がない症例に適応があるが,弁石灰化を合併している透析症例では施行されることが少なく,弁置換術が主体となっている。MRでは左室が体液過剰により生じている機能的なMRを念頭に置き,水管理を行ったうえで,NYHA(New York Heart Associationの心機能分類)III度以上,心血管造影でSellersIII度以上を手術適応とする。しかしながら,弁石灰化の頻度が高い透析症例では僧帽弁形成術の適応は慎重を要し,弁置換術が主体となる。ASでは弁口面積0.9 cm2以下,圧較差60mmHg以上で失神,息切れなどの自覚症状を有する症例,ARではNYHAII度以上,左室が拡大し(55mm以上),収縮機能が低下(左室駆出率55%以下)している症例で弁置換術が行われる。
 弁置換術では急速な生体弁の劣化が弁石灰化などにより懸念されることから,透析症例では器械弁を第 1 選択とした弁置換術が提唱されている7)。器械弁を使用すると抗凝固療法が必要となるが,非透析症例に比較してきめ細かな抗凝固療法が必要であることはいうまでもない。

《文 献》
1 . Tomson CRV : Cardiovascular disease in chronic renal failure. In : Johnson RH et al, editors. Comprehensive Clinical Nephrology St. Louis, Mosby ; 2000, pp 70.71-70.14
2 . 大橋宏重ほか : 腹膜透析患者での心肥大の特徴―MIBGならびにBMIPP心筋シンチグラムによる検討―. 透析会誌 2002 ; 35 : 1557-1561
3 . 大橋宏重ほか : 透析心の病態について Carnitine deficiency syndrome ―透析患者のカルニチン欠乏症候群―. 天野泉(編),腎と筋・エネルギー研究会,名古屋,1998 ; pp1-10
4 . London GM et al : Calcification of the aortic valve in the dialyzed patient. J Am Soc Nephrol 2000 ; 11 : 778-783
5 . Wang AYM et al : Association of inflammation and malnutrition with cardiac valve calcification in continuous ambulatory peritoneal dialysis patients. J Am Soc Nephrol 2001 ; 12 : 1927-1936
6 . Otto CM : Aortic stenosis―Listen to the patient, look at the valve. N Engl J Med 2000 ; 343:652-654
7 . Bonow RO et al : Guidelines for the management of patients with valvular heart disease : executive summary : A report of the American College of Cardiology / American Heart Association Task Force on Practice Guidelines. Circulation 1998 ; 98:1949-1984


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