腹膜透析(PD)は血液透析(HD)と違い,透析患者が自ら透析医療の一端を担うために,CAPD患者は自分で自分のことを適切に行える自己管理能力が必要のように思われる。実際,自己管理能力が必要であることはいうまでもないが,心理学的にみていくつか注意しなければならない点がある。
1. PD患者の心理的特徴
a) 几帳面で衛生観念の強い人ほどPDに適している?
物事に対してとても几帳面で,しっかりとした衛生観念の強い人ほど,自己管理能力を要するPDに向いているように思われがちである。確かにいい加減なタイプよりも几帳面な方がPDには適しているかもしれない。また,しっかりとした衛生観念をもっている人の方がそうでない人よりも,腹膜炎などの危険性も少ないことも確かなように思われる。 b) 活動的な生活を送りたい HDはどちらかといえば,日本人好みの「お任せ医療」に近く,受け身的な国民性を有する日本人には向いているように思われる。これに対して,PDは在宅で行う医療であり,日本人には苦手なタイプの医療である。実際,PDの普及率は 5 %前後であり,20人に 1 人がPDを選択しているに過ぎない。PDを選択する透析患者は,透析をうけながらもより活動的な生活を送りたい人であることが多く,人生に対して前向きで,生きることに対するモチベーションが高いように思われる。
2. PD患者にともないやすい強迫的心性
a) 強迫的な性格者はPDに向いている?
しかしながら,ここで注意しなければならない点がある。精神医学的にいえば,このようなタイプの人たちは強迫的な心性が強く,一度気になりはじめるとわき上がる不安を処理し切れなくなることがある。強迫的性格の根源は不安である。不安だからこそ,気になって仕方がなく,物事に几帳面になることができるし,衛生的な側面も備えることができるのである。ただ,本人は不安を強く意識していないこともある。わかりやすくいえば,PD治療に関して強い不安をもっているからこそ,自己管理も怠らずにきちんとPDを自らの手でこなすことも可能になる。 b) 諸刃の剣 ただし,あまりにも強迫的心性が強過ぎると問題を起こすこともある。例えば,几帳面で衛生観念が強く,PDの管理はすこぶる良好であったにもかかわらず,腹膜炎などを起こしたりすると,ただでさえ不安が強い強迫的な人の不安はいっそう強くなり,「また腹膜炎を引き起こすかもしれない……」と思いはじめ,ささいな変化が気になって仕方がなくなる。そうなると,いても立ってもいられなくなり,頻繁に主治医や看護スタッフに確認を取るような行為がみられたり,不定愁訴がみられたりすることもある。つまり,強迫的な性格は,PDの自己管理能力を高める大きな要因であるが,ひとつ間違うと不安が増強され,問題行動に発展しかねないという諸刃の剣のようなものである。 3. 中庸
一方,不衛生で物事をきちんとできないタイプの人は管理上好ましくないとされる。実際はその中間的な人が望ましく,両端に位置する人は精神医学的に問題を生じやすい(性格的な不安および強度の強迫的心性)。
PDにおける長期予後のデータが集積され,次第に長期PDによるEPS(被N性腹膜硬化症)の問題が明確になってきたが,それにともないPDの施行方法に関しては様々な検討が試みられている。これまではHDかPDのどちらかの選択を下さないといけなかったが,最近ではHDとPDの併用療法の有用性が指摘されるようになった。 一方,心理的にいえば,かつては心理的な問題とはまったく無縁に思われるようなPD患者のケースの中に,PDの持続が困難になり,HDに移行せざるを得ない状況になり,その際に心理的な問題が顕在化するケースがみられる。PD患者の中には,積極的な社会復帰を望み,PDを選択した患者もいれば,HDに対する否定的な感情が強く,どちらかといえばPDに逃避した患者もいる。PDに逃避した患者の中には,腎機能喪失による精神的な悲哀を,PDに逃げることで避けてきた患者が少なからず存在するように思われる。このようにPDの心理社会的適応として,より高い社会での活動性を求める腎不全患者に好ましいとされるが,実際は必ずしもそうでないケースが存在する。 1. PDからHD移行時にみられる心理的問題
PDが比較的順調に経過している場合は心理的問題が顕在化しないこともあるが,HDに移行せざるを得ない状況が発生した場合,心理的な反応が顕在化する。その多くは,悲哀の仕事(喪の仕事)が未完了のケースである。 喪の仕事とは,ここでは腎機能を喪失し透析治療の必要性を聞かされ,精神的な打撃をうけて喪失体験を悲しむ心理的作業を意味するが,HDから逃避しPDを選択することで,「透析治療をうけなければならない自己の存在」を否認し,現実の世界から目をそむけることが可能になる。PDでは「自分は腎不全患者であり,透析をうけないと生命を維持できない」というHD患者にみられる感覚をやわらげることができ,情緒的に不安定にならなくてすむ。なぜなら,病院に行く回数は極端に少ないし,時間の拘束が少ないため行動制限が最小限ですむという利点がPDにあるからである。確かにPDにともなうメリットが,腎不全患者の情緒面の安定化につながるということはとても好ましいことではあるが,患者によっては現実逃避を促し,透析の精神的受容を著しく妨げることもある。つまり,HDでは避けては通れない喪失体験から悲哀の仕事への心理的プロセスが凍結し,先送りになってしまうということにほかならない。 それゆえ,PDができなくなりHDを余儀なくされた患者の中に,あたかも最近腎不全になったばかりの患者のように,今頃になって喪失体験から喪の仕事のプロセスをやり直す患者がみられる(そのプロセスの詳細については,本連載の第 1 回を参照していただきたい)。 2. HD困難でPDを選択した患者の心理的問題:PD施行中のPDに関連するトラブルと心理的問題
もともと不安や恐怖が強い患者の中に,PD施行中に遭遇した医療トラブル(腹膜炎など)によって,ますますその種の不安や恐怖が増幅された患者も少なくない。そういう患者が,HDが困難でPDを選択した場合,PD中止が死を連想させるために不安がかなり強くみられることがある(状況依存性の不安)。
人間はだれでも不安や[藤を抱えているが,@性格的に不安が強く強迫的傾向が顕在化しやすいタイプ,A状況依存性の不安を呈した場合,BHDに対する精神的受容(喪の仕事)が未完了の場合などが,PD施行,あるいはHD移行時に心理的問題が顕在化しやすいといえるかもしれない。(完) |
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