7 月に開催されたPDフォーラムでは,PDの位置付けを巡り,さまざまな問題が提示された。そこで,PD療法に積極的に携わる若手医師にお集まりいただき,同フォーラムで提示された問題をふまえ,改めてPDを巡る現状と課題,そしてPDの将来について話し合っていただいた。




医療者側のバイアスが阻むPD普及
教育がキーに
政金 “PD, New Challenge”をテーマにPDフォーラムが開催されましたが,明らかにPDを取り巻く状況は変わってきており,それに適応していかなくてはならないと痛感しました。
 PDフォーラムでは,HDと対等な治療としてPD療法を日本に導入するために尽力された先生方が,以後,被嚢性腹膜硬化症(encapsulating peritoneal sclerosis ; EPS)をはじめとするPD特有の問題に直面し,PDを「先発完投型」の治療から,補完的な療法を含む新たな位置付けを見つけていかなくてはならないのではないか,という考えを示されました。
 私は,フォーラムで岡山済生会総合病院の平松信先生が講演されていたように,PDならではの高いクオリティーが存在すると信じています。ただ,今のPDを取り巻く状況は,ちょっと元気がなくなってきてしまっています。ですから本日の座談会では,明るいPDの将来を創るために,われわれの世代が何をしたらよいのか,素直に感じるところを話し合いながら,PDの位置付けを探っていきたいと思います。
 はじめに,PDの普及を阻む問題点という観点から,皆さんの考えをお聞かせ願えればと思います。
 透析患者さんが加速度的に増えているにもかかわらず,なぜPDが頭打ちになっているのでしょうか。
笠原 まず,教育の問題があると思います。大学の教育,特に研修医に対する教育です。私自身,研修医時代にPDを指導された経験はありませんし,PDについての教育がきちんと行われている施設はごく少ないのが現状ではないでしょうか。
 その背景には,かつてPD導入初期,まだPDが様々な問題を抱えていた時代に,つらい経験をされた先生方が,最初からPDを排除するようになってしまっている,という現実があると思います。だから若い医師たちにもPDのマイナス面だけが伝えられていますし,私自身,以前はPDは非常に怖い治療だと思っていました。「腹膜炎になったら助からないのでは」という誤解もありました。しかし,実際は腹膜炎も適切な治療さえすればすぐに治るケースが多い。そういう現実を知らない人ほど,「PDはリスクが大きい」と大げさに語るところはありますね。
政金 確かに,かつて自分が経験した失敗というものは後々までネガティブなイメージとして残るものですからね。
笠原 もう 1 つは,PDは医師の負担が大きいと思われがちな点が挙げられるのではないでしょうか。HDの場合は技師や看護師のかかわる部分が大きいですから,医師の負担は少ない。それに比べてPDは手がかかるのではないかとしり込みしてしまう方もいらっしゃるのではないかと思います。また,すでにHDを行っている施設にとっては,ランニング・コストの面からPDの導入に消極的になるということもあるでしょう。
 PD普及を阻む原因はいろいろあるとは思いますが,私は教育の問題とコストの問題が 2 つの大きな壁として立ちはだかっているように思います。
政金 PDフォーラムでも話題になりましたが,全腎協の調査で,透析導入にあたってPDの説明を受けていない患者さんが約40%にのぼっていましたからね。笠原先生がご指摘のように,医療者側に重大なバイアスがある,ということですね。
本田 私も笠原先生のお話には非常に共感するところが大きいです。一番大切なのは医師の意識だと思います。患者さんにHD,PDそれぞれの長所短所を公平に説明すべき医師の意識のなかで,最初からHDを偏重している気がします。
 お話を聞いていて思い出したのですが,私自身も臨床を始めた頃,先輩の医師はPDに対して否定的でしたし,若い医師にもPDの負の面ばかりが強調されていたように思います。
有薗 HD,PDの説明をする医師の意識にバイアスがかかっていることは否めないと思います。例えば,若い人や小児患者に対しては社会復帰やQOLを考えてPDを勧めても,かつてネガティブセレクションといわれた高齢者や糖尿病の患者さんに対しては,いまだに消極的な意識が働く先生方が多いようです。
 それから,PDに慣れていない施設ですと,1 度大変な患者さんを受け持ったことで病院全体がバーンアウトしてしまい,「PDとはこんなに大変な治療なのか」という意識が植え付けられてしまうこともあります。
稲熊 私も医療サイドの問題が一番大きいと思うのですが,さらに患者さん側の問題もありますね。日本人特有のメンタリティーの問題ともいえると思うんですが,特に高齢の患者さんの場合,自分自身で管理をしなくてはならないPDに関して消極的な人が多いということもあります。
 しかし,やはりメインは医療者側の問題ではないでしょうか。私自身の反省も含めていわせていただくと,当施設に赴任した 8 年ほど前,よかれと思ってPDを導入した患者さんが早期に残腎機能を失い,体液過剰から拡張型心筋症のような病態を呈したことがあります。それ以来 2 ,3 年ほどは,「この人にPDを勧めてよかったのか」という反省から,PDを積極的に勧められませんでした。同僚の若い腎臓内科医がそういう私の姿を見れば,PDに悪いイメージを抱くのは当然のことでしょう。
政金 やっぱりバッド・メモリーがあるとなかなか先に進めないと…。
稲熊 そうですね。それから,PDの説明にはかなりエネルギーが必要です。短い外来時間の中で,バイアスをかけずにうまく伝える大変さは日々感じています。患者教育,保存期教育の体制を整えることも重要だと思います。
有薗 私のところでは,透析導入時の説明をしたあと,あえて医療者は席を外して,患者さんに同じような年齢・職業でPDをやっている人,HDをやっている人に会ってもらい,両方の話を聞いてもらうということをしています。
政金 それは一番効果的ですよね。患者さんも,医者の話は聞かなくても実際にやっている患者さんの話だと熱心に聞いてくれますから。

高いQOL,安定した循環動態
PDの利点は正当に評価されているか
政金 稲熊先生がご指摘のように,現在PDに熱心な医師であっても,かつてEPSや腹膜炎に悩んだ過去は持っているわけですよね。
有薗 そうですね。しかし一方で,PDを導入したことにより長期間お元気で仕事もバリバリやっておられる患者さんも多数経験しているわけです。
政金 そこなんですよ。PDだからこそ実現するメリットもたくさんあるわけです。
本田 PDとHDのどちらがまさるかと問われて,多くの医師がHDがまさるとお答えになるのはある意味で正しいと思います。腎不全の病態の管理に関しては,HDのほうがはるかにやりやすい。
 それにも増してPDを勧めるメリットとして,社会復帰,QOLの向上,そして患者さんの気持ちを明るくさせる,といったプラスの面があるから,一定期間はPDでいこうじゃないか,という方法論も確立されつつあるんじゃないかと思うんです。
政金 そうですね。それが今日の座談会の 1 つの大きなテーマになるわけです。例えば透析効率からHDとPDを対峙させて優劣を論じるというような現状ではないわけです。それよりも,HDとPDの特性を検証したうえで,PDならではのメリットをいかに活かすか,という点について話し合っていきたいと考えているのです。
 ここで,HD,PDそれぞれの合併症について整理したいと思います。
 合併症はPDのほうが多いといわれていますが,実際のところどうなのでしょう。例えばPDの合併症としては腹膜炎が挙げられますが,HDに腹膜炎が起こらないのは当たり前の話であって,HDはHDでやっぱり合併症は出てくるわけですよね。笠原先生はどのようにお考えでしょうか。
笠原 私の施設は救急病院ですので,市内のHD患者さんが心筋梗塞や脳出血を起こして運ばれてくることがしょっちゅうあるんです。ですから私は常々「HDの患者さんはどうしてこんなに合併症を頻回に起こすのか」と頭を悩ませていました。HDの患者さんは,週に何度も通院されているにもかかわらず,心血管イベントが起こりやすい,という印象を持っています。
 先ほどPDの合併症として,腹膜炎の話題が出ましたが,HD患者さんの心筋梗塞や脳出血などの合併症と比べれば復帰は容易です。
 また,1 人あたりの患者さんでみますと,PDの患者さんが出口部感染を起こすのは数か月から 1 年に 1 回程度で,HDの患者さんのシャント閉塞も同じぐらいの頻度ですが,シャント閉塞の場合は必ず手術を要するわけです。
 ですから私自身は,心血管系の合併症を回避することを第一の目的に,自分が苦労したくないからというのもあって,PDファーストを積極的に実践しています。患者さんが病院に行かなくてはならない機会をなるべく減らしたいからPDにしているんです。それに,患者さんにとってもPDがHDよりも優れている時期というのがあるはずなんですよ。
 ただし,PDはあくまでも生体の腹膜を使う療法ですから,腹膜劣化については常に注意する必要があります。そして時期を見計らってHDに移行しています。
政金 確かに,「PDは合併症が多い」と一言で片付けられてしまうことがありますが,笠原先生がおっしゃるように,「脳梗塞や心筋梗塞,脳出血はHDの合併症ではない」と誤解されているふしはありますよね。これはやはり医療者側の認識不足に起因しているのでしょうね。
笠原 そう思います。
稲熊 そのほかHDの合併症としては,シャントに人工血管を使われた場合,それを原因とする感染で亡くなられる方も少なくありません。一方,PD患者の腹膜炎は,私の経験ではかなり減ってきています。
有薗 確かに腹膜炎は減ってきていますね。PDでドロップアウトする一番の原因は水分・塩分コントロール不良,二番目が腹膜炎です。難治性あるいは遷延性の腹膜炎の場合,カテーテルを抜去する必要があり離脱の原因となります。しかし,腹膜炎後の除水不全などの腹膜機能低下が間接的に離脱の原因になっていることが多いというのが私自身の印象です。
政金 ここまでは,先生方にPDの普及を阻む問題を挙げていただきましたが,結論として医療サイドの意識の低さが最も大きな問題であることがわかりました。  是非ともわれわれの世代が頑張って自分の地元の医療者を引っ張っていくくらいの心意気が必要ですね。われわれがPDについての正しい情報を知らしめていかないと,PDの明るい将来はないですよ。
笠原 私自身は,地元でクレアチニン 2 〜 3 mg/dL程度の患者さんを診ておられる開業医の先生方をターゲットに,「在宅で透析患者さんを診ましょう」と呼びかけています。HD施設の先生方にPDのよさを説明しても,なかなか難しい。だから,HD施設への紹介元である開業医の先生方に,「当施設がマザーホスピタルになって,トラブルが起こったらすぐにケアしますから,安定している状態だけ診てください」というお話をしています。かなり反響はありますよ。
政金 なるほど。それはPD導入の新しい展開のキーになりそうな方法ですね。

EPSは腹膜劣化と炎症に起因
予防手段は着実に進歩
政金 それでは次に,PDの医学的な問題解決のアプローチを考えてみたいと思います。まずPDの安全性について確認してみましょう。PDの最大の課題に,EPSがあるわけですが,本田先生,アップトゥーデートな話題を含めてEPSについてご解説いただけますか。
本田 まずEPSは,「患者さんにPDを勧めたために,死に至るような合併症となってしまった」という罪悪感を医療者に大きな傷跡として残してしまったと思います。「EPSが克服できない以上,患者さんにはPDを勧められない」という考えは,誠意ある医師にとって当然の考えでしょう。
 EPSの現状についてここでお話ししますと,日本透析医学会がEPSの克服に取り組むべく指針を掲げてから約 5 年がたちましたが,これまで医療者が抱いてきた危惧を,完全に払拭したとはいえません。ただ,確実にわかってきていることもあります。そして病態の解明が進むにつれ,透析液の改良を含め,EPS予防につながる手段が着実に進歩してきています。ですから,現時点では,完全に克服はできないけれども,光は見えてきていると思います。
 EPSの病態について,どうしても理解していただきたいのは,慢性的な腹膜劣化イコールEPSではないということです。PDフォーラムでも,あかね会土谷総合病院の川西秀樹先生が解説されていましたが,「 2 Hit Theory」という機序のもとにEPSが発症するのです(PDフォーラム取材記事P.51参照)。すなわち,PD期間が短くても炎症が強ければEPSは発症しうるし,長期のPDにより腹膜劣化が進んでいる患者さんでは軽い炎症でもEPSになってしまうということです。
 こうした背景をよく理解し,EPSの予防および早期治療を行い安全にHDに移行する方法が確立されれば,PDのプラスの面を最大限に活用することが可能になるのではないでしょうか。
有薗 腹膜劣化の一番のファクターは何でしょうか。
本田 透析液の生体不適合性です。生体適合性のよい透析液を使うことにより,炎症によるSecond hitがあったとしても容易にEPSには進展しないと考えます。腹膜劣化を遅らせる方法は徐々に確立されてきていると思います。
政金 そうすると,例えば中性液とかLow GDPsの液は,腹膜劣化を遅延させる効果をかなり期待できるということですか。
本田 期待できると思います。従来の透析液は,5 年以上使用すると腹膜劣化を来すことがわかっていますが,イコデキストリン透析液のような新しい透析液を使うことによって,腹膜劣化を遅延させる効果が期待できると思います。ただ,今のところ大規模試験による検証はまだされていませんが。
稲熊 ちょっと質問させていただきたいのですが,EPSのPoint of no returnはどこなんでしょうか。Second hitが起こってしまったら戻れないのでしょうか。
本田 今までEPSと診断されたケースは,手遅れになった状態のものがほとんどだったんですが,最近はEPSが疑われる段階ですぐに処置をしています。例えばステロイド投与をする症例も増えてきていますし,早期の離脱や腹腔洗浄なども行っています。
 昨年報告された川西先生らのプロスペクティブ・スタディのデータでは発症率2.3%とのことでしたが,今後はこのようなEPS発症前の処置が奏効して発症も減少していくのではないでしょうか。
有薗 以前はEPSを発症すると保存的な治療しかできませんでしたが,いまは発症しても手術や腹腔洗浄などでなんとか切り抜けられるような症例も増えてきています。私自身はEPSで紹介された患者さんを 3 例経験していますが,幸いにも全例手術して社会復帰しています。
笠原 初期のイレウスは,軽い膜性の癒着ですので剥離できますね。
政金 そうするとEPSを恐れてPDを躊躇する時代は過去になりつつあると…。
本田 もちろん慎重に取り組むべきですが,病態の解析と,診断に対する知識の普及,そして早期における対策という点ではかつてよりかなり状況は改善してきていると思います。
政金 それはものすごく心強いですね。

残腎機能を意識してPDを施行
HDとの併用も
政金 さて,それでは次に,PDの新しい治療形態の話題に移りたいと思います。
 PDフォーラムでは平松信先生が高齢者へのPDの適応についてお話しされていましたが,私はあのお話に非常に心を打たれました。平松先生は高齢患者さんへのPD導入を積極的に勧めておられます。先生は「お年寄りは,PDで数年間でもQOLが維持できれば何よりだから」とおっしゃっています。
 一方で,小児患者へのPD導入が多いのは,ブラッドアクセス確保が難しいという理由だけではなく,数年間,PDを施行すれば将来的には生体腎移植が期待できるという背景もあるのではないかと思います。
 30代,40代の働き盛りの人に,あと数十年PDで頑張れ,と言いたくても難しい話であることはわかっています。そういう状況の中,平松先生の「高齢者にこそPDを」というお話はPDの新たな可能性を示すお話だったと思います。
 皆さんはPDの新たな適応や導入形態についてどのようにお考えですか。
稲熊 私自身は,原疾患から残腎機能が長く持ちそうだという患者さんにPDを勧めることが多いですね。例えば,閉塞性尿路障害という進行性の腎障害ではない原疾患をお持ちの40歳ぐらいの患者さんは,10年ぐらいPD療法を受けられていますが,今でも2,000mL/日ぐらいの尿が出ています。こういう泌尿器科的な疾患のある患者さんにはPDをやってよかったな,と思う経験が多いです。
 それから,高齢者に多いのですが,腎硬化症の患者さんにはPDをお勧めしています。HDで 1 日おきのペースで大量に水を引くよりも,PDのほうが残腎機能を維持できるのではないかと考えるからです。
 いずれにしても,残腎機能を意識してPDかHDかの判断を行っています。
笠原 私の場合は,基本的にPDファーストです。この方には管理は難しいだろうというケースでない限り,ほぼPDの適応としています。年間40〜50例の透析導入がありますが,PD導入患者数が約 9 割を占めると思います。先ほどお話ししたように,心血管イベントによる救急搬送を避けるという目的もあります。
政金 かなり徹底していますね。
笠原 はい。何よりも患者さん自身にもPDで満足していただいているという実感がありますから。
 それから,日々,多くのPD患者さんと関わっていて感じるのは,医療従事者のPDとHDの技術の差です。日本では,限られた人しかPDをやっていませんが,もし一般の開業医や看護師がPDをわかり始めたら,PDのレベルはかなり上がってくると思います。そうなってくると,透析の導入形態そのものが変わってくると思います。
政金 そもそも「PDファースト」という言葉の意味なんですが,最初に行うrenal replacement therapyであるということは,すなわち残腎機能がある,ということですよね。
笠原 そうです。ただし,一方でPDをやめる時期を考えていなくてはいけません。
政金 そのタイミングはどのように見極めていますか。
笠原 水分・溶質コントロールが難しくなった時点でHDをお勧めしています。ただし,個人差もあります。PDをやり始めて意外と残腎機能が悪くなる人もいる一方で,持ちこたえる人もいます。平均的にはPD施行から 5 〜10年ぐらいでHDに切り替えることが多いですね。
政金 有薗先生はいかがですか。
有薗 当施設は,年間の透析導入が70例前後で,うちPD導入が 1 割です。基本的にはご本人のADLがよく,PDの管理ができそうなケースにおいてPD・HDの両方について説明して患者さんに選択していただきます。
 私自身は,その方の人生で一番よい時期にPDをもっていけるようにしたいと思っています。例えば子供の世話をしなければいけない若い母親とか,働き盛りの男性にはできるだけPDを勧めたいと考えています。
 また,最近では70歳以上の高齢者にもPDを導入し始めています。確かに平松先生がおっしゃるように感触はよいですね。
 PDファーストの一番の理由は,連続的な療法で残腎機能が維持できることです。逆に,欠点は効率が落ちることですが,高齢者にとっては少々効率が落ちても体格との兼ね合いから問題にならないことが多いといえます。
政金 PDに関心をもつ日本の先生方は,DOQIガイドラインが変更されるたびに注目してきたわけですが,私は体格の大きな欧米人のデータを日本人にあてはめるわけにはいかないとこれまで思ってきました。
有薗 確かに,DOQIガイドラインのデータはクリアランスや尿素窒素だけをみていますが,実際にはPDはもっと大きな分子を取り除くとか,残腎機能があれば,より自然な代謝内分泌の環境に持っていけるといった利点があると思います。そもそも透析量を小分子のクリアランスだけでみること自体が間違いだと思います。
本田 残腎機能を保持できるということはPDの明らかなメリットの 1 つであり,疾患特異性としては腎硬化症が最も適しているといわれています。私自身は糖尿病合併例を含めたどの疾患においても,循環動態を急激に変えないというPDのメリットは生きると思いますので,PDファーストは積極的に進めていくべきだと思います。
稲熊 DOQIガイドラインでは,PDでKT/Vが2.0を切ってきたときにPDへの導入を推奨しています。ただ,その段階でスタンダードドーズのPDが必要かといえば必ずしもそうではなくて,貧血がひどくなる前に軽めのところから入ってソフトランディングしていくような方法も考えられてよいと思います。

透析量だけでは測ることのできない高齢者PD
フレキシブルに対応を
政金 高齢者の保存期腎不全の場合,体液量のコントロールが難しい患者さんがいますよね。そういう方には,例えば夜 1 バッグでもよいと思うんです。保険ではアクセプトされないかもしれませんが,そういうことを許容していかないと,本来もっているPDのよさが生きてこないのではないでしょうか。「透析量をクリアランスだけで測るな」という先ほどの話にも通じるんですが,そういうやり方を実践されている方はいらっしゃいますか。
有薗 当施設は,高齢者でご家族が世話しているような場合,昼間 3 回交換だけで夜は休みというような方法を試みています。
笠原 われわれの施設でもご家族が世話している患者さんの場合,家族が交換できる時間によって日曜日や夜,昼のどちらかを休んだりしています。ただ,APDにつないでしまうと夜トイレに行けないという問題が出てきますので,家族や訪問看護師の目が届く昼にやることが多いですね。
政金 私のところでも,平松先生や養生会かしま病院の中野広文先生のお話を聞いてやってみたんです。そうしたら非常に喜ばれました。高齢者は週 5 日や 1 日 3 バッグでもしっかり食事して元気に畑仕事に行かれていますし,クリアランスだけでは評価できないと感じました。
有薗 私も若い人は合併症を防ぐためにある程度効率を追求する必要があると思いますが,高齢者に対しては過度の効率は必要ないと考えています。その観点からもPDの有用性は高いと思います。
政金 例えば,新しいイコデキストリン透析液を使うと,日中のバッグ交換の負担は減りますよね。「 1 日 4 回バッグを交換してください」というのと「朝と晩だけ交換してください」というのでは患者さんやご家族のストレスも違ってきますので,これは革命的な進歩だと思います。
 患者さんの多くを高齢者が占める今,人生の締めくくりに高いQOLを保つという意味でバッグ交換の回数を減らすことができるというメリットは大きいですね。私は今のところ 3 人の患者さんにイコデキストリン透析液を使っていますが,ご本人にもご家族にもとても喜ばれています。
笠原 私も,高齢者の場合は特に積極的に勧めるべきだと思います。
本田 イコデキストリン透析液には,糖を含まない,浸透圧が生理的であるという利点もありますので,腹膜劣化を予防する意味でも有益だろうと思います。ですから,除水量が落ちてからではなく,早期から使用してグルコース曝露を減らすという意味でも有用性が期待できると思います。
有薗 最近,イコデキストリン透析液は残腎機能を維持できるというデータも出ていますので,今後,使用法の検討を行いたいと思います。  除水量を高めるために高濃度の透析液の代わりに使うことも考えています。トータルの糖負荷量が多いとPETカーブも早期に上がりますけど,年間の糖の使用量が少ないと何年間も横ばいで維持できるというデータがありますので,通常は1.5でスタートし,どうしても2.5を使わなければいけないような場合にはイコデキストリン透析液で置き換えると糖負荷が少なくてよいと思います。
 また,糖尿病の患者さんにとっても,イコデキストリン透析液は糖代謝に影響を来さない可能性が高いので福音だろうと思います。
政金 糖負荷の問題点は,体液管理が不十分になって高濃度の透析液を使うことにあるわけですね。それにともない,左室心筋重量が大きくなり,なおかつうっ血性心不全で炎症反応が出て残腎機能を悪くしているとすれば,イコデキストリン透析液が体液量をコントロールして残腎機能を保護するというデータは信憑性が高いと思います。
笠原 溢水状態自体も残腎機能に影響を与えるでしょうし,東京都済生会中央病院の栗山哲先生がPDフォーラムでおっしゃっていたV-factorというのもPDを継続させる重要な因子じゃないかと思います(P.52参照)。
政金 イコデキストリン透析液を使用することで体液管理は容易になるだろうし,残腎機能の維持にも有用だろうということですね。それから,血圧の管理はもとより,心血管イベントの発生抑制についてもかなり期待がもてるんじゃないかと思います。
 PDフォーラムでも,PDファーストでPDを導入し,残腎機能がなくなったらHDで補完して治療していこうという意見が示されていました。イコデキストリン透析液の使用によって,HDに移行するまでの時間が延びるかもしれないという期待も出てきました。
 また,私から先生方にお願いしたいことがあります。高齢のPD患者さんにおいて,個々の条件によってバッグ交換の頻度を少なくすることの有用性を検討していただけませんか。その結果をJSPDやJSDTで発表し,PDの新たな可能性を発信していただきたいと思います。
笠原 現に65歳以上の高齢者の透析が若い人と同じレベルでないといけないのかという議論はありますので,政金先生のご提案もオプションとしてあってよいのではないかと思います。

PD+HDの併用療法
新たな適応を探る
政金 笠原先生の施設では,PDとHDの併用例はどれぐらいですか。
笠原 約 1 割の患者さんに積極的に導入しています。ほとんどが残腎機能が少なくなってしまった例ですが,2 週間に 1 回HDを取り入れる方が多く,あるいは毎週 1 回取り入れている方もいらっしゃいます。
 週に 2 回以上になると保険の問題もありますのでHDに移行します。ただ,それを受け入れてくれる施設がないと,どちらも管理料がとれないという問題があります。
有薗 当施設ではPDの患者さんが約50人いますが,半数近くがHDを併用しています。併用といいましても,不定期な併用と定期的な併用があります。
 不定期な併用というのは,特に一時的な除水不良,例えばかぜをひいたりして体調を崩したためにNSAIDなどの薬剤使用で一時的に体液が増えたような状態が対象になります。それから,腹膜炎を起こしたときは腹膜を休ませるために積極的にHDを併用しています。
 定期的な併用療法は,基本的に残腎機能が消失した患者さんが対象です。少し除水不足かな,溶質除去不足かなと思われるような方は,その日と翌日の 2 日間ぐらいはPDを休んでHDをやっています。
 最初は月 1 回ぐらいから始めて,必要に応じて 2 週間に 1 回にし,週に 2 回以上しないといけないような人は完全にHDに移行します。
本田 PDとHDの併用についてはPDフォーラムでも話題に上りましたが,双方の利点を生かすという意味で有用性は高いと私も思います。患者さんの社会生活,QOLの維持の観点から,保険の制約など制度的な問題がクリアされるとよいですね。
有薗 私たちはこれまで,クリアランスを上げたり,除水を増やすために,「バッグの交換を 4 回から 5 回にしてください」とPDの患者さんに対してQOLを落とすようなやり方を勧めてきたところがあると思います。
 PDとHDを併用することによって,私たちも安心して管理ができ,患者さんサイドにとっても,例えば土日にPDホリデーを設けることもできるなど,QOLを向上させることができ,医療者側,患者さん側双方が得られるメリットは大きいですね。
 それから先ほど,本田先生がEPSの「 2 Hit Theory」について説明されたように,腹膜劣化の一番の原因はやはり高濃度の透析液を使うことだろうと思います。
 そうしますと,要するに薄い透析液を使っている期間はHDを併用せず,高濃度の透析液を使う代わりにHDを併用しようということになると思います。ですから,2.5%透析液は多くても 2 回ぐらいまでにして,それ以上に増やすのであればHDを併用して腹膜劣化を防ごうという考え方はスタンダードになりうると思います。

SMAP (段階的導入法)
患者満足度の向上と在院日数短縮に寄与
政金 次に,PDの導入プロセスの話題に移ります。最近, 段階的導入法SMAP(Stepwise initiation of PD using Moncrief And Popovich technique)の適応が増えてきていますね。
笠原 そうですね。当施設では,ここ 1 年半ほど,かなりの症例がSMAPでPDに入っており,すでに24例に達しています。
 当初SMAPは,出口部強化につながるといわれていたのですが,実際にやってみると従来の方法に比べれば若干よい程度かな,という印象です。むしろ意外だったのは,カテーテルを留置してから出口を作製するまでの期間に患者さんの意識が格段に改善されることです。患者さんご自身が,カテーテルを留置されたことで治療意欲が増し,真剣味をもって取り組まれるというメリットは大きいですね。
 もう 1 つのメリットとして,カテーテルを入れると決めてから実際に使用するまでに時間的余裕があるため,患者さんがまじめに取り扱いを勉強してくれることが挙げられます。ですから,出口部作製直後に2Lの貯留が可能になり,退院までに数日間で済むのが当たり前のようになってきました。
政金 従来のやり方ではPD導入のための入院は時間がかかりましたからね。
笠原 以前はPD導入に 1 か月間ぐらい入院していただいていました。SMAPで導入すると,カテーテル留置前後の数日間の入院で済むわけです。結局,在院日数が短くなって,経営的にもプラス,患者さんにもプラスの効果が出てきます。
 SMAPでもう 1 つよい点は,患者さんと「出口部をどこにつくりましょうか」というお話がじっくりできるということです。急にやると,患者さんは透析のことだけで頭がいっぱいになってしまい,出口部作製のことは上の空になってしまいがちですから。
政金 私自身,SMAPは非常に有用な手段だと思います。例えば高齢者の場合,1 か月も入院すると足腰が弱ってしまい,以前はできた畑仕事が退院後はできなくなるということもあるわけです。ですから,高齢者の場合はSMAPによる導入をスタンダード化して,在院日数を短縮すべきだと思います。
有薗 笠原先生のところのように,最初の入院から 2 回目の入院までに期間があればよいのですが,「 1 回の入院で済むのになぜ 2 回入院するのか」という苦情が出ることはありませんか。
笠原 実はわれわれの施設では,入院は 3 回していただいています。最初は腎不全中期に 1 週間の教育入院で,この間にHD・PDから選択していただきます。そのうえで,PDを選択された患者さんに対しては,2 回目の入院でカテーテルを留置し,3 回目の入院で出口部を作製しています。
 いずれも,患者さんの都合に合わせて入院のスケジュールを計画しますから,あまり大きな問題にはなりません。
稲熊 当施設もまだ症例数は多くないんですけど,SMAPで導入する例が増えています。笠原先生がおっしゃったように時間的な余裕が得られるメリットは大きいです。患者さんにとってはもちろんのこと,看護師にとっても余裕をもって患者さんにいろんなことが指導できますし,それがモチベーションの向上にもつながるという利点もあります。

糖尿病症例におけるPDの適応について

政金 糖尿病を合併した腎不全の患者さん(以下,DM症例)が急激に増加していますが,今後,PDの位置付けはどのようになっていくとお考えでしょうか。
笠原 当施設のデータでは,DM症例にHDを導入した場合,平均寿命は 3 年から 5 年です。JSPDのデータでも 5 年が平均生存率でした。
 その死因のほとんどが心筋梗塞後の心不全でした。1 回は蘇生しても 2 回目の発作ではどうしても死亡例が多くなるわけです。私自身は,そのリスクを避けたいがために積極的にPDを導入しているわけで,実際PDの患者さんでは心血管イベントがHDの患者さんほど目立って起こらないという印象があります。
政金 DM症例に対して,PD,HDのどちらを選択するかというのはいろんな問題を含んでいますね。
笠原 確かにデリケートな問題ですね。ただ,私自身は,透析をやっていないDM症例の心血管イベントを考え合わせると,やはり心血管イベントはHDそのものに対する合併症ではないかと感じることが多いのです。ですから,最近ではDM症例にも積極的にPDを勧めています。
稲熊 当施設では,実はDM症例にPDを導入した例は80例中 5 例しかいません。やはり,代謝面や脂質代謝,末梢血管の問題などで苦労した経験がありますので,あまり積極的に導入しているとはいえません。
本田 私自身もDM症例にPDを勧めた経験はあまりありませんでしたが,最近,いろいろな方の研究発表をみると,HDに遜色ないというものが多い。カロリーオーバーに気を付けて管理すればプラス面は多いと思います。
有薗 当施設も,今までは代謝面の問題とか耐糖能の問題があって,基本的にはDM症例はPDの適応から外していました。ただ,糖負荷が少ないという新しい透析液を使って管理ができればDM症例も対象になるかなと考えています。
政金 うちではPD患者さんの半分がDM症例ですが,正直なところ従来の透析液を使った場合,若干QOLは落ちるかなというのが実感です。
 さらに心配な点として,高齢者のDM症例は透析量を増やすと死亡率が高くなる傾向が指摘されている点です。糖尿病合併例については,やはりグルコースを含んだ透析液を使ってPDを行う場合は注意する必要があると思います。
 糖尿病合併例の場合,恐らく体液量の管理不良というものがシンクロしていて,必ずしも糖だけが悪いとはいえないとは思いますが,こうした危惧をイコデキストリン透析液が解決してくれるのではないかという期待はもっています。
稲熊 もう 1 つ,DM症例において特に注意しなくてはならないのは,食事療法です。PDの利点としてHDに比べて食事療法が厳しくないという点が前面に出過ぎるきらいがありますが,この点については疑問に感じています。
 食事療法が厳しくないということをメリットにPDを選んだ患者さんは,もちろんカリウムや蛋白質は十分摂取すべきですが,塩分・水分に関しても自由であると誤解をしている方がかなりいらっしゃいます。
 そのことが,PD導入後の体液コントロール不良の一因でもありますし,長期コントロールを目指すうえで 1 つの問題かなと思います。
有薗 PDを普及させるためにはどうすればよいかという最初の話題に戻れば,これだけ高齢者の糖尿病合併例が増えてきましたから,こうした患者さんに対するPDの可能性について検討をしていく必要がありますね。

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政金 PDはEPSをはじめとする問題があったために正当に評価されなかったところがあると思いますが,今日の座談会で,ある程度,その誤解は解けたと思います。PD療法の特性をよく理解して導入すれば,高いQOLを得ることができ,循環動態を安定するという意味から心血管イベントの抑制も期待できるわけです。
 今後,こうしたPDのメリットを地域の開業医の先生方や研修医に情報提供していく必要もありますし,ローカルな学会・研究会で積極的に発表の機会を得ていく努力もしなくてはいけないと思います。
本田 そうですね。われわれが日々,外来で実感しているPD患者さんの明るさ,元気さというものは経験した者にしかわからないと思います。お年寄りがPDを施行することで,元気に畑仕事をやっているというよさを,開業医の先生方,若い研修医に知っていただく機会をつくっていけば,もっと普及していくと思います。
政金 今後,PDを普及させることによって,多くの患者さんがQOL高く生活できる将来を期待したい。われわれの世代がその将来を創っていかなくてはならないと思います。皆さん,頑張っていきましょう。
 本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。


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