CAPDでの体液量管理とPD処方の工夫
聖路加国際病院 腎臓内科 小松 康宏

適正透析の概念は,
Kt/Vやクレアチニン・クリアランス(Ccr)などの小分子量溶質クリアランスから,体液量管理,栄養状態
などを含むものに拡大されつつある。
古典的な透析不足,すなわち小分子量溶質クリアランスが不十分な透析処方は論外だが,
Kt/VやCcrが一定値に達した場合,
予後をさらに向上させるためには体液量・血圧管理など他の因子を考慮する必要がある。
現在,体液量・血圧コントロールの重要性が注目されている。
昨年JASNに体液量管理を目的とした透析処方をする際に参考となる 2 つの論文が掲載されたので紹介する。

Icodextrin Improves the Fluid Status of Peritoneal Dialysis Patients: Results of a Double-Blind Randomized Control Trial
イコデキストリンは腹膜透析患者の体液状態を改善する:二重盲験対照研究の成績
Davies SJ, et al.: J Am Soc Nephrol 2003; 14: 2338-2344
背 景
 腹膜透析患者では体液状態が悪化すれば,腹膜透析継続率および患者生命予後が低下する。ブドウ糖ポリマーであるイコデキストリンを用いた透析液では,長時間貯留で限外濾過量(除水量)が増加することが知られている。
目 的
 イコデキストリン透析液が体液状態を改善するか否かを明らかにするために,2.27%ブドウ糖透析液とイコデキストリン透析液を対比した,多施設,無作為化,二重盲験,比較対照研究を実施した。
対象と方法
 尿量が750mL/日以下で,腹膜透過性がhigh transporterに属し,高血圧があり,2.27%ブドウ糖透析液を使用せざるを得ない50名の患者を,2.27%ブドウ糖透析液使用群とイコデキストリン透析液使用群に無作為に割り付け,1 ,3 ,6 か月時点で評価した。
結 果
 体重はイコデキストリン透析液群で減少,対照群では増加した。総体水分量にも同様の差が認められ,イコデキストリン透析液群では細胞外液量が減少したと考えられ,3 か月時点では除水量およびNa除去量も有意に増加,一方,尿量は 6 か月時点でも高く維持されていた。以上から,イコデキストリン透析液を長時間貯留に用いることで残腎機能を悪化させることなく体液量の状態を改善することができることが示された。

Survival of Functionally Anuric patients on Automated Peritoneal Dialysis : The European APD Outcome Study.
無尿APD患者の生存率:欧州APDアウトカム研究(EAPOS)より
Brown EA, et al: J Am Soc Nephrol 2003; 14: 2948-2957
目 的
 欧州APDアウトカム研究(EAPOS)は無尿のAPD患者を対象に実行可能性と臨床的予後を明らかにする 2 年間にわたる,前向き,多施設共同研究である。
結 果
 67%の患者は適正体液状態,23.6%は軽度体液過剰状態,9.4%は中等度以上の体液過剰状態と判断された。これらの患者群間には,透析量,水塩分排泄量には違いが認められなかったが,心胸比や血圧は体液過剰と判断された患者群で有意に高値であった。
対象と方法
 年齢の中央値が54歳の177名の患者が対象となった。PD歴の中央値は38か月,36%の患者は以前に90日間以上の血液透析歴があった。糖尿病と心血管系疾患を有する率はそれぞれ17%,47%であった。APD処方は研究期間初期 6 か月間で,Ccr≧60L/wk/1.73m2,除水量≧750mL/24時間となるように調整した。溶質輸送能(D/P)は腹膜平衡試験(PET)で評価した。

 腹膜透析患者の生命予後を向上させるための最善の透析処方として,米国のK/DOQIガイドラインは総Kt/V,総Ccrで表される小分子量溶質クリアランスを高く維持することを推奨した。しかし,残腎機能が低下した患者では,標準的な一日 4 回交換のCAPDでCcrを60L/週/1.73m2(PETでL,LAに属する患者では50)以上に維持することは困難である。EAPOS研究は残腎機能が 0 であっても自動腹膜灌流装置と日中のバッグ交換を組み合わせたCCPDを行うことで,十分に目標クリアランスを達成できることを示した。さらに同研究は,予後を規定する因子は小分子量溶質クリアランスでなく,除水量であることを示唆しており,Atesらの報告(Kidney Int 2001; 60: 1552)と同様に,適正透析の概念を小分子量溶質クリアランスから体液量管理を含むものとする新たな根拠を提供したともいえる。 
 透析患者の最大の死因は心血管合併症であり,その予防には適切な体液量・血圧コントロールが欠かせない。国際腹膜透析学会は,2000年に限外濾過管理に関する提言を発表し,適正な体液量と血圧を維持することの重要性を主張している(Perit Dial Int 2000; 20. Suppl. 4. S5-S21)。一方,体液量是正,血圧管理を目的として除水量を増やした結果,残腎機能,尿量が低下し,最終的には体液量コントロールが困難になるのではという懸念もある。Gunalらは,塩分制限とPD除水量を増加して厳重に体液量を管理すれば,降圧薬の減量と血圧管理が可能となることを示したが,尿量は減少している(Gunal AI et al.: Am J Kidney Dis 2001 : 37:588)。また,除水量を増加させるために透析液のブドウ糖濃度を増加すると,腹膜機能や代謝に悪影響を及ぼすことも危惧される。こうした疑問に対してDaviesらの論文は,イコデキストリン透析液を長時間貯留に用いることで,ブドウ糖の負荷や残腎機能低下などの悪影響なしに,体液量管理を改善しうることを報告した。
 体液量是正・血圧管理は適正透析の新たな対象ではあるが,Kt/Vのような客観的指標がないことが,臨床現場での評価を難しくしている。体液量を適切に評価できる臨床観察能力を高めるとともに,客観的な指標を確立する努力と,体液量過剰を招くことなく,かつ残腎機能を保持する透析処方の工夫が求められている。
 今回の論文では,体液過剰状態と血圧との関連が強調されている。確かに,体液過剰状態は高血圧を増悪させる要因となっているのは明らかであろう。この点は,今後,イコデキストリン透析液の使用によってさらに厳密な管理をすることの必要性を示すものである。しかしながら,体液管理が適正と考えられる患者群にも高血圧を有する患者は少なくなく,この問題は紹介した論文中でも触れられている。このことは,透析患者の高血圧の成立には,水バランス以外の別の要因が大きく関与しているためと考えられる。この病態解明については今後の重要な課題と思うが,まずは,これらの患者の心血管合併症を予防するために,どのような降圧薬を第一選択としていくべきか,今後,コンセンサスを形成する必要があると思う。