従来のブドウ糖とは異なり,浸透圧物質にイコデキストリンを使用した新しい腹膜透析液「エクストラニール」が発売されて,約 1 年が経過した。  そこで, 腹膜透析(PD)療法に積極的に携わる 5 人の医師にお集まりいただき,同透析液の臨床における使用経験,さらに今後の位置付けについて話し合っていただいた。




生体適合性と
QOL向上への期待から導入
山本 昨年 6 月に発売された新しい腹膜透析液エクストラニールは,除水効果の高さ,そしてブドウ糖分解産物による腹膜へのストレスも少ないなどのメリットが期待されていました。発売後,約 1 年が経過しましたが,本日はお集まりいただいた先生方に実際に使用された経験についてお話しいただきたいと思います。
 はじめに,1 年の臨床経験を経て,エクストラニールがどのような患者さんに適応するとお感じになられているのかお聞かせいただけますか。
 ご指摘の通り,エクストラニールは,除水不良の患者に対して十分な除水ができること,従来のブドウ糖含有腹膜透析液(以下,ブドウ糖透析液)と異なり浸透圧物質としてブドウ糖を使用せず,イコデキストリンとよばれるポリグルコースを使用しているため,ブドウ糖の負荷がなく,より生体適合性が高いことが期待されています。
 私自身は,長期間にわたってPD療法を行うことによるEPS発症のリスクへの懸念から,生体適合性の高さを期待してエクストラニールを導入しました。
 具体的には,残腎機能が少し落ちてきて,従来であれば2.5%のブドウ糖透析液の導入を検討していたような症例に対し,ブドウ糖透析液の代わりにエクストラニールを使用しています。また,APD症例の場合に,QOL向上を目的に日中 2 回バッグ交換をしていたものを 1 回に減らし,日中に貯留するかたちにしたり,2.5%のブドウ糖透析液を日中 2 回交換していた患者に対し,エクストラニールと1.5%のブドウ糖透析液の組み合わせに変更したりしています。
 その他,心疾患を合併しているHD患者 2 例に対し,体重の増加を防ぎ,心臓への負担を軽減することを目的にエクストラニールを導入しています。
 現在,PD施行例40症例のうち,22例にエクストラニールを使用しています。
長谷川 私も,できるだけ高濃度のブドウ糖透析液の使用を避けたい,というのが第一の理由でエクストラニールを使用しています。体液管理の困難な症例に対しては,エクストラニールの使用だけにこだわらず,HDへの移行なども考慮します。
 エクストラニールを使用する症例としては,低濃度のブドウ糖透析液だけでは管理のむずかしい患者さんに対し,まずは夜間にエクストラニールを長時間貯留するようにしています。また,APD症例については,日中の長時間貯留にエクストラニールを使用しています。APDの患者さんで日中仕事をされている方にとっては,昼休みのバッグ交換が負担になることもありますから,そういう意味では患者さんのQOLも向上していると思います。
 導入症例数については,施設全体では50例強の全PD患者さんの約50%,私が診ているPD患者さんに限ると約60%の症例にエクストラニールを導入しています。特に私からエクストラニールを勧めているわけではなく,患者さんからの希望があって使用するケースも多いですね。最近はPD導入当初からエクストラニールを使用する症例が増えています。

E-APD,PD導入期からの
エクストラニール使用も有用

足立 エクストラニール導入当初は,除水不良の方を対象としていました。しかし,その後導入症例数の増加とともに,PD歴が長く,残腎機能の失われた方で,2.5%ブドウ糖透析液を使用せざるを得ない方を対象に,エクストラニールを使用するようになりました。そして,現在は除水の改善よりも,むしろ生体適合性の観点から,長期予後の改善を期待してエクストラニールを導入しています。もともと当施設では,PD患者のほとんどがAPDであるため,除水不良で困ることがあまりない,という背景もあります。その他,患者さんご自身からご要望をいただくこともあります。
 また,PD離脱を期待できる患者さんに対し,最終的にエクストラニールのみを使用することもあります。実際,そのような方法で離脱された方が 1 人,現在離脱中の方が 1 人いらっしゃいます。エクストラニールを使用することによって尿量が保たれ,腎機能も改善し,離脱も可能になるという印象をもっています。
 さらに当施設では,日中にエクストラニールを長時間貯留し,夜間にAPDを組み合わせる,いわゆるE-APD (Extraneal-APD)療法も導入しており,QOLの面で患者さんからも高い評価を受けています。
 エクストラニールの溢水改善効果については,使用開始後 1 か月間は非常に有効なのですが,3 か月後のデータではまた元にもどっています。PD療法に伴う溢水の問題は,90%が自己管理不良によるものと考えていますが,エクストラニールを使用することによって除水量が増えると,患者さんも水を飲んだりして結局溢水状態にもどってしまうのかもしれません。今後,6 か月,1 年と長期間使用することによって,hANPの推移,患者さんのむくみなどに注意しながら観察したいと思います。
 なお,当施設ではPD患者56例中,CAPDは 2 〜 3 例のみで,残りはすべてAPDなのですが,そのうち60〜70%にエクストラニールを使用しています。
山本 PD症例のほとんどがAPDとのことですが,PD導入時からAPDにされているのですか。
足立 はい。
山本 残腎機能への影響を懸念して,導入時からAPDを行うことを躊躇される先生もいらっしゃるようですが,足立先生は残腎機能に関してAPDでデメリットを感じられることはありませんか。
足立 今のところCAPDと比べても遜色ないことを示すデータが出ています(図 1)。

山本 APDはCAPDに比べて除水はしやすいけれども,逆にいえば時として脱水にもなりやすく,残腎機能を落とす可能性を危惧する声も聞かれます。そこに,導入時からエクストラニールを併用すると,さらにそのリスクが高まるのではないか,と想定されますが,足立先生のデータをみると,E-APDによる一日除水量,残腎機能はともに安定していますね。
 森石先生はいかがですか。
森石 私どもの施設でも2.5%のブドウ糖透析液の使用量を減らすために積極的にエクストラニールを導入しています。
 また,エクストラニールを残腎機能が保たれているPD導入期の患者さんに使用しています。この時期は,残腎機能に合わせると,1.5L透析液の 1 日 3 回交換で十分な透析量が得られます。しかし,3 回交換だと 8 時間以上の貯留が必要になるので,通常の 1.5%液を使うと著しいマイナス・バランスになってしまいます。そのような患者さんにエクストラニールを使うと,残腎機能を保ったうえで,PDによる除水量も増加し,マイナス・バランスが解消されます。さらに,患者さんの交換にともなう負担が少なく,高いQOLが得られます。そういった意味で,PD導入期のエクストラニール使用は非常に有用だと思います。
 また,今までブドウ糖透析液を 4 回交換していた患者さんに対し,貯留液量を増加したうえでエクストラニールを加えた 3 回交換に変更することによって,同等な透析量が得られる場合もあります。そうすると,患者さんにとってもQOLが向上するので,逆に患者さんからエクストラニールを希望されることもあります。
山本 エクストラニールの貯留は夜間と日中,どちらにされるケースが多いですか。
森石 ご高齢の方では夜間を好まれる方が多いです。夕食後に交換し,翌日の朝食と昼食の間に交換するというパターンが在宅でのゆったりとした生活にはよいようです。一方,会社勤めの方などは,日中の貯留はバッグ交換が不要になるので,社会復帰しやすいといわれています(図 2)。

山本 皆さんのお話を伺っていると,当初期待されていた,腹膜機能がある程度低下して,体液過剰になった症例に対して除水を稼ぐという目的よりも,導入初期から併用することによってQOLを向上させ,なおかつブドウ糖の曝露を減らすことにより腹膜への障害を軽減させ,残腎機能をも温存しながらうまく透析量を確保していこう,という考え方に変わりつつあるとの印象を受けます。


DM症例,心疾患合併例における
エクストラニールの有用性

山本 エクストラニールは糖負荷が少ないため,糖尿病の症例に対しても有利であるといわれています。糖尿病患者に対するエクストラニールの使用経験はございますか。
足立 糖尿病患者に対してエクストラニールを使用したところ,HbA1cが下がり,インスリンの使用量が減ったケースを経験しています。
森石 当施設でも,症例数は少ないのですが,エクストラニールを使うと除水量が増加し,体液管理がよくなったという方がおられます。また,インスリン投与量も確かに減りました。
山本 では,心疾患合併例におけるエクストラニールの使用経験についてはいかがでしょうか。
濱田 当施設では 2 例の心疾患合併症例において,HDとエクストラニールを用いたPDを併用しています。1 例は,比較的軽い心筋症,もう 1 例は重度のAS(大動脈弁狭窄症)と僧帽弁の閉鎖不全症の合併例です。いずれも,PDからHDに移行したのですが,通常の血圧が80台のため, 1 回の血液透析で 体重の増加を1.2kgぐらいに抑えておかねばならず,非常に厳しい状況にありました。幸いCAPDカテーテルを抜いていなかったのでエクストラニールを加えることにして,HDのない日の夜間にエクストラニールを10時間ほど貯留することにしました。結果として,体重の増え幅は変わらないのですが,お 2 人ともに300mLぐらい除水量が得られており,それだけ食べられるし飲める,ということでとても満足されているようです。
 今年の日本透析医学会学術集会・総会でも,心疾患合併例において,エクストラニールを用いたPDの併用による除水効果を認めたとする報告がありました(図 3)。

山本 逆に,エクストラニールを使用するにあたり考慮を要する症例のご経験はありますか。
濱田 当施設でエクストラニールの使用を中止した症例が 3 例あります。心胸比も変わらず,体重もそれほど増えておらず,むしろ全体の水分除去量は増えていて,水分管理としてはほとんど変わらないのですが,血圧のコントロールがむずかしいケースでした。それが多糖体であるイコデキストリンの影響なのかどうかはわかりませんが,思い切って 2.5%のブドウ糖透析液にもどしたところ,1 〜 2 か月後には血圧が安定してきました。
森石 どれくらい上がったのでしょうか。
濱田 どのケースも,130〜140mmHgが150〜160mmHg になって,降圧薬を 1 〜 2 剤増やさざるを得なくなりました。そこまで降圧薬を増やしてエクストラニールを継続する必要があるのかと思い,2.5%液にもどし,約 1 か月後に降圧薬の投与量も元にもどしました。
山本 私の施設では,高濃度ブドウ糖透析液を使わないと十分な除水ができない場合は積極的にエクストラニールを使っていますが,尿量が減ることは時々あっても,血圧の上昇はあまり経験していません。しかし,イコデキストリン等の体内への負荷にともなう体液量への影響については不明な点も多く,いまご指摘いただいた件については,今後,注意深くみていかなければなりませんね。


患者満足度の高い
E-APD

山本 次に,エクストラニールの透析効率に対する影響について伺いたいと思います。長谷川先生は,除水効果,溶質除去効果について,どのような印象をもたれていますか。
長谷川 すでにご指摘がありましたように,除水に関しては,導入当初は上がっても,その後プラトーになるということを私も経験しています。また,約10例の24時間排液と蓄尿を評価したところ,除水量が増えるにつれて,weeklyのクレアチニン・クリアランスやKt/Vはわずかではありますが増えているのです(図 4)。除水され過ぎることによる残腎機能の低下を危惧していましたが,そのような症例は今のところ経験していません。

 また,エクストラニールを使用している患者さんでは,nPCRが上がっている方が多いのです。患者さんご本人も「楽になった」「食欲が出てきた」とおっしゃっていて,実質体重も増えているようです。エクストラニール導入前は,著しいむくみなどがなくても,やはりHD患者さんよりもウェットな状態であったのが,導入直後に余剰の水分が抜けるときに,トータルの除水量が増え,そして真のoptimalなドライウェイトに近付くことによって除水量が少し減り,定常状態になるのではないか,という印象をもっています。
山本 エクストラニールに期待される残腎機能の温存効果については,これまでの先生方のお話をまとめると,エクストラニールを使っても,トータルの水分除去としては一定に保たれる傾向にあるので,極端な脱水になる可能性は低く,したがって,急に残腎機能が悪くなることはないであろう,ということですね。
 患者さんの満足度,QOLについてはいかがですか。
長谷川 APDをされている方の中には,除水やクリアランスの問題から日中 2 回ないし 3 回バッグ交換をしなければならない患者さんがいらっしゃいます。そのような方も,日中はエクストラニールを使って長時間貯留すれば,出先や会社でバッグ交換をしなくて済みます。これは,精神的にもかなり負担を軽減するものと思います。最近は理解のある会社も増えて,会議室や医務室などで交換できるところもあるようですが,やはり人目が気になるなどプレッシャーはあると思います。ですから,日中の長時間貯留にエクストラニールを使う場合には,非常に患者さんの満足度も高いようです。
濱田 CAPD 4 回交換の場合,日中にエクストラニールを使いますと,それ以外のバッグ交換がかなりタイトになって,外出先から帰ってきてから寝るまでの間,頻回に交換しなければなりません。APDというのは,そういう点ではよいですね。エクストラニールの恩恵を最も受けているのは,恐らくAPDの患者さんでしょう。
足立 当院では,精神的に機械につながれていることに苦痛を感じる方や,痴呆症状のある方を除いては,ほとんどAPDを選択されています。特にこちらからAPDを勧めているわけではないのですが,患者さんも夜間だけすれば昼間は健常人と変わらない生活ができるということで選ばれているのかもしれません。また,APDにエクストラニールの日中貯留を組み合わせたE-APD導入後は,バッグ交換の回数が減り,「自由に使える時間が増えた」と多くの患者さんに高い評価をいただいています(図 5)。

山本 QOLの改善に関して,エクストラニールは非常に有効だといえるわけですね。そして,QOL向上を目的に昼間にエクストラニールを使用するのであれば,APDが最も相応しいのではないか。それが,E-APDの特長といえるわけですね。


腹膜機能への影響について
長期的な検討を

山本 次に,エクストラニールの期待効果の 1 つとして,腹膜機能への影響について考えていきたいと思います。
 腹膜機能に関しては,まだ長期のデータがないので評価はむずかしいところですが,現時点で何かデータをおもちの先生はいらっしゃいますか。
森石 エクストラニールを貯留した後のPETと2.5%液を貯留した後のPETを比べると, エクストラニールの方が0.05〜0.08ほどD/Pクレアチニン比が上がってしまう結果が得られています。
山本 それは小分子物質の透過性が亢進してしまうためでしょうか。除水量についても,透過性の亢進とともに落ちますか。
森石 除水量はあまり変わりませんでしたが,PETでの透析液中ブドウ糖濃度が低下していました。これは,エクストラニールが腹膜のsmall poreへ何らかの影響を与えていると推測しています。
山本 森石先生はCA125も測定されていらっしゃいますが,エクストラニールを使った場合,改善はみられましたか。
森石 エクストラニール使用後,3 か月毎に約 1 年間測定しています。ばらつきがあり,有意差が認められませんでしたので,もう少し時間をかけた検討が必要であると考えています。
山本 そう考えると,腹膜機能に対して,どこまでベネフィットがあるかというのは今後の検討課題であるといえますね。
濱田 それこそ,まさに日本で行うべきスタディだと思います。ヨーロッパのスタディでは,エクストラニールを除水不良の人に使って治療継続率や生存率が延びたという結果が得られていますが,わが国の場合は,PDでできるだけ透析期間を延ばしたいというケースが多いわけですから,計画的にそういうスタディを組んで,どの程度の効果があるかをみていかなければならないでしょう。ブドウ糖の曝露が減ることによって本当にAGEsの産生や腹膜劣化を食い止められるかということも,検証すべきです。
山本 当院では,PD症例において,PD期間の年数と腹膜機能で,ある基準を満たしたら計画的に離脱させることにしています。その基準をエクストラニールが変えうるのか,今後のデータに期待したいと思います。
 除水不良が予後悪化因子であることを示す報告は複数あり,除水を稼ぐことが重要であることに変わりはありません。しかし,残腎機能が保持されているPD導入当初から腹膜機能を温存することが,予後にどのように影響を与えるのか,長期的な臨床研究が必要になってくるものと考えます。


エクストラニールが
今後果たしうる役割について

山本 最後に,CAPDの適用拡大において,エクストラニールが果たしうる役割について,皆さんのご意見をいただけますか。
濱田 森石先生が先ほど紹介された,比較的腎機能が保たれている患者さんのPD導入期において,1 日 3 回交換のパターンにエクストラニールを組み合わせるという方法は,初めてPDをスタートさせようという施設や医師にとっては非常にとっつきやすい方法であると感じました。この方法であれば,尿がカバーしてくれるし,患者さんの QOLもある程度保ちやすい。そういう意味では,エクストラニールはCAPDの裾野を広げるうえでも有用であると思います。
長谷川 これまでは,残腎機能の低下とともに除水量を稼がなければならず,そのため高濃度のブドウ糖透析液を使わざるを得ず,その結果,さらに残腎機能や腹膜機能が低下してしまうという悪循環がありました。それを断ち切るひとつのストラテジーとして,エクストラニールの有用性に期待しています。
 また,これまでにE-APDによって患者さんのQOLが十分に高まることを,臨床の場で実感しています。ですから,今後もQOLを高めるという観点からもエクストラニールを使っていきたいと考えています。
足立 当施設でも,すでに実践しているE-APDを,さらによい方向に展開したいと思います。当院ではこれまで,約150人の患者さんにPDを導入していますが,EPSの発症をみていません。その理由は,NPDで入ったために腹膜機能が保たれているからなのかもしれませんが,さらにエクストラニールという新しい透析液を導入したことで,どのようにデータをとって解析すればよいか,検討していきたいと考えています。
森石 エクストラニールによって腹膜機能や残腎機能がどうなるのかは,今後のトライアルに期待するしかないわけですが,エクストラニールというこれまでとはまったく違ったタイプの液によって,患者さんの生活にゆとりがもたらされたということは,とても大きい意味をもつと思います。エクストラニールによって,患者さんにさらに受け入れられるPD治療になると思われます。
山本 わが国でエクストラニールが使われはじめた当初は,除水量が稼げるという特徴から,ある程度腹膜の機能が悪くなり体液過剰になったケースに適応するだろうという固定観念がありました。しかし,1 年の臨床使用を経て,透析導入初期から用いることでQOLを上げ,ブドウ糖の曝露を減らして腹膜機能を温存し,さらに残腎機能を保ちながら,透析量を上手に保つことに重点を置いてエクストラニールを使用されていることがわかりました。今後,さらに効果的にエクストラニールを使っていくために勉強していきたいと思います。
 本日はどうもありがとうございました。