はじめに
 腹膜透析(PD)の利点として,連続的な治療法であること,また,残腎機能の保持に優れていることが挙げられる。連続的に緩徐に水分や老廃物を除去することができるため,心血管系に対する影響も少なく,高齢者や糖尿病性腎症などの合併症を抱えた患者が増加している現況においては,在宅で施行可能でかつ高いQOLが得られる方法である。しかし,一方では,血液透析(HD)に比べると水分や老廃物除去の効率が悪いことが最大の欠点でもある。
 PDでの透析量は残腎機能に大きく依存しているため,残腎機能が消失した時点が PD治療における大きなターニングポイントである。この時点で,個々の症例ごとに治療法の見直しを行う必要がある。また,生体膜であるがゆえに使用年数とともに腹膜が劣化し,透析膜としての性能が低下することも避けて通れない問題である。
 PDにHDを併用する方法(PD+HD併用療法)は,PDでの透析量不足を補い,腹膜機能の保持をはかる 1 つの手段である。併用療法を,在宅治療の代表であるPDを安全に長期に施行するための 1 つの戦略として考えたい。


腹膜の特性
 PDは生体膜(腹膜)を利用するために実際に透析を施行してみなければ,水分や溶質除去に対する腹膜の機能や特性はわからない。また,その腹膜機能には個人差も大きい。さらには生体膜であるがゆえに,長期になると腹膜の劣化の問題も加わる。
 腹膜は中皮細胞,間質,血管から構成されているが,長期になると中皮細胞が剥離し,間質では線維成分が増えて腹膜が肥厚し,血管内腔の閉塞や狭窄を引き起こしてくる。腹膜機能については,経時的に腹膜透過性が亢進するが,腹膜へのブドウ糖負荷の総量が少なければ,この腹膜透過性亢進を抑制できること,また,高濃度ブドウ糖液や高浸透圧液・酸性液の使用・可塑剤やブドウ糖分解産物などが腹膜の劣化に関与していることも報告されている。感染性腹膜炎も重要で,腹膜炎時には中皮細胞が剥離し,ブドウ糖液そのもので治癒機転が遷延化し,間質の線維化が進行し,以後の腹膜機能に大きな影響を与える可能性が示唆されている。
 このような観点から,安全に長期にPDを継続するためには,使用する透析液のブドウ糖濃度や腹膜炎時の対応にも配慮が必要である。体液管理を行う際に,基本的な水分や塩分制限を行わずに,安易に高濃度ブドウ糖透析液を使用することは避けるべきである。


残腎機能が消失した場合の対応
 まず,水分や塩分除去が十分であるか,溶質除去が十分であるかを判断する必要がある。体液管理(水分や塩分除去)については,体重増加や血圧,浮腫の状態,胸部X線などの所見から比較的評価しやすいであろう。しかしながら,溶質除去不足(透析量不足)の判断は,典型的な尿毒症症状を呈することはまれであるためにしばしば困難をともなう。生化学データは良好であるにもかかわらず,透析量不足の症状として,貧血,不眠,いらいら感などが現れる場合もある。
 PDの透析量は残腎機能に大きく依存しているため,残腎機能が消失するとPD単独では至適な透析量を達成することがきわめて難しくなる。そのため,残腎機能が消失した場合の対応として,(1)交換回数や透析液量を増やす,(2)HDを併用する,(3)完全にHDに移行する―などの対応が考えられる(図 1)。





中止時期の見極め
 長期PDの最大の合併症として,(1)体液管理不良にともなう高血圧や心肥大,(2)被嚢性腹膜硬化症(EPS)が挙げられる。上記の合併症を起こさないように常に最大限の注意を払うべきである。
 体液管理不良に対しては,高濃度ブドウ糖液の使用,新しい透析液(イコデキストリン)の使用,HDの併用などで比較的容易に改善をはかることができるように思う。
 一方,EPSについては予防が第一であろう。EPSの危険因子として長期間のPD(腹膜の劣化),反復性の腹膜炎,腹膜平衡試験(PET)にてHigh(腹膜透過性が亢進した状態)を呈することなどが挙げられている。腹膜自体の組織学的検査は日常的には困難なため,排液中の腹膜細胞で合成された物質(CA125など)の測定や排液中に剥離してくる中皮細胞の形態や面積などが腹膜変性のマーカーとしてしばしば用いられる。この観点から,山本らはEPS予防のためのPD中止基準として,中皮細胞面積350μm2以上を 1 つの目安とし,長期透析症例やPETでHighを呈する症例では厳重な注意が必要であることを強調している。
 EPSを恐れて,単にPDを中断することのみに終始した場合,高齢者あるいは循環器系合併症を持つ患者やブラッドアクセスの作製が困難な患者では,短期的および中期的な患者のQOLを低下させ,結果的に患者の予後を損なう可能性もあることも念頭におくべきである。PDの継続あるいは中止の判断は,個々の患者の全身状態や合併症の有無を考慮し,症例ごとに検討すべき事項であろう。


療法変更のためのインフォームド・コンセント
 長期にPDを施行している患者では,PD単独の治療に固執する場合が多く,患者を説得することは容易ではない。特にPDからHDに完全に移行する場合はそうである。それに対して,PD+HD併用療法は,PDからHDへの移行の 1 つの手段として比較的抵抗なく受け入れられる方法でもある。体液コントロールが困難な場合や溶質除去が不足している場合には,高濃度ブドウ糖液を用いて交換回数や透析量を増加させるより,HD併用を行うほうが腹膜の機能維持の面からも有用と考えられる。そのためHD併用は“より安全に長期にPDを続けるための 1 つの手段”という位置付けも可能である。「人が疲れたときに休むように,腹膜も同じように休みながらやっていこう。特に元気のよい人ほど休養が必要である」と説明している。HD併用開始時期としては,残腎機能が消失した時点が理想的な時期と思われる。また,HD併用の回数も,患者の状態やQOLに合わせて個別に検討するよう配慮している。
 また,HD併用中であっても週 2 回以上の併用が必要な症例,前述のように中皮細胞面積が増大傾向でPETでHighを呈する症例,腹膜炎を繰り返すような症例では,EPS発症の危険性を十分に説明し,完全にHDへ移行するように指導している。


PD+HD併用療法
 併用療法の目的は,(1)水分・塩分除去と溶質除去の不足を補う,(2)できるだけ高濃度ブドウ糖液への移行を避ける,(3)腹膜炎時の腹膜の傷害を避ける,(4)腹膜機能の保持,(5)腹膜休息効果―に要約される。
 われわれの検討では,1 回のHDにて(小分子量領域では)PDの約 3 日分に相当する溶質を除去できる。また,水分・塩分除去については,週に 1 回のHD併用でなくても,2 週に 1 回程度のHD併用でも体液コントロールは十分可能である。
 定期的な併用においては,体格,体重に応じて除水不足,溶質除去不足を補うことができ,至適透析量の達成が可能である。また,高濃度ブドウ糖透析液の使用頻度を減らすことが可能で,腹膜機能の温存に寄与していると考えられる。不定期な併用においても除水目的での高濃度ブドウ糖液の使用頻度を減らすことが可能である。また,腹膜炎時に高濃度ブドウ糖液への曝露を避けることができ,腹膜の治癒過程に対し,よい影響を与えると考えられる(図 2)。
 さらには,併用療法を行うことではじめてPDの休止―いわゆる腹膜休息が可能となる(図 3)。腹膜休息もまた,腹膜機能の維持に大きく貢献していると思われる。







おわりに
 PDやHD の長所や短所を十分理解したうえで,個々の患者において柔軟に透析方法を選択することが必要であろう。全人的に患者を捉え,常に患者のQOLや予後に配慮した透析方法が望まれる。



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