このほど,横浜市内でPD University−Advanced Course(校長:神奈川県衛生看護専門学校付属病院 川口良人先生,司会:貴友会王子病院 窪田実先生)が 2 日間にわたって開催された。このコースは過去3年間にPD Universityを卒業し,現在PDの臨床に積極的に携わっている先生方から症例を出していただき,ケースカンファレンスの方式で十分な時間をかけ行われた。「糖尿病」,「骨代謝」,「心血管系」,「合併症」,「適正透析」,「その他」の 6 つのテーマに分けたセッションにおいて,症例報告および講義が行われた。
 開会にあたり,PD Universityの校長である川口良人先生は,「症例を共有する中で,独自の思考を展開し,文献的考察を加味し,最も適切な解決策を追及すること,さらに経験症例を拡大し,自己の判断能力を高めることを目的に議論してほしい」と述べた。以下,各セッションの模様をリポートする。


■ セッション1:糖尿病

症例1 PD療法4年目に一時インスリン療法を要した
2型糖尿病の1症例
吉川 憲子 先生(東京医科大学八王子医療センター 腎臓内科)

 吉川先生は,PD導入 4 年目にインスリンの分泌不全を呈したためインスリン療法を行った 2 型糖尿病症例について報告。ブドウ糖透析液の長期間にわたる使用から慢性的高グルコース刺激により膵疲弊を来し,インスリン分泌障害を来した可能性を示した。


慢性的な高グルコース刺激により膵疲弊を
来したPD症例にインスリン療法が著効
 症例は,56歳男性。88年に耐糖能異常を指摘され,93年より食事療法を開始,その後スルホニル尿素薬(SU薬)を一時内服していたが,腎機能低下にともない中止されている。97年に末期腎不全にいたり,患者希望により連続携行式腹膜透析(CAPD)を導入した。
 CAPDは,1.5%ブドウ糖透析液1.5L× 4 回/日で開始し,残腎機能の低下にともない透析液量および濃度を変更。00年 7 月以降は1.5%ブドウ糖透析液 2 L× 2 回+2.5%ブドウ糖透析液 2 L× 2 回/日にて施行した。
 その後01年 4 月までは,HbA1cは 6 %以下,食後血糖は200mg/dL以下で推移し,体重増加も認められなかったが,5 月に食後血糖が250mg/dLを超え,食後インスリンも50〜90μU/mLに上昇した。そして同年11月末より食後血糖300mg/dL,食後インスリン20μU/mLとインスリンの分泌不全を呈し,HbA1cが10.1%に上昇したため,インスリン皮下注射を開始した。
 インスリン療法開始後は食後血糖180mg/dL以下,HbA1c 5.5%以下にコントロールされ,インスリン必要量も漸減。03年 5 月にはインスリン療法を中止した。
 また,腹膜平衡試験(PET)施行の際,透析液単独での血糖およびインスリンに対する影響を確認するために,空腹時2.5%透析液貯留前後の血糖値とインスリンを測定し,その経時的変化を追跡したところ,インスリン療法開始後にいずれも減少していた。
 吉川先生は以上の通り報告し,「食後インスリン,食後血糖の測定はHbA1cに先行して耐糖能悪化のマーカーとなりうる可能性があり,空腹時のPET施行前後のインスリンおよび血糖の測定は耐糖能を把握するうえで有用であると考えられる」「同症例では,腹膜透析液由来の慢性的な高グルコース刺激によって膵疲弊を来し,インスリン療法を要したが,血糖コントロールによりインスリン療法が不要となった。すなわち,膵β細胞の再生が認められた可能性がある」との見解を示した。
 また,同症例では,脂質および血圧は良好にコントロールされていたにもかかわらず,PD導入12カ月目に狭心発作があり,薬物治療開始後も頻回に発作が続き,数回にわたって経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を必要とする冠動脈硬化病変が認められた。このことから吉川先生は,「頻回に認めた動脈硬化病変の悪化に高インスリン血症およびインスリン抵抗性が関与した可能性が示唆された」と考察した。
 さらに,この症例を含む糖尿病合併PD症例10例を 1 年以上にわたって追跡したところ,7 例はPD導入前に糖尿病治療が行われていなかったが,導入後はインスリン療法や血糖降下薬による治療が必要とされた。また,これら10例のうち 6 例でPD導入後に心血管系疾患を発症していたと報告した。これらのことから吉川先生は,「動脈硬化性病変の促進の機序に,インスリン抵抗性および慢性炎症の存在が関与しているのではないか」との見解を示した。
 なお,透析液をイコデキストリン透析液に変更することによって食後インスリン,食後血糖,インスリン抵抗性指数(HOMA-IR)が低下する傾向がみられたことから,「イコデキストリン透析液の使用によりグルコース吸収量の抑制が期待できる」と述べた。その他,非糖尿病性PD症例においてロシグリタゾンがHOMA-IRを低下させたとの報告があるが,わが国では同じペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)γ阻害薬のピオグリタゾンのみが承認されており,同薬については浮腫や心不全などのリスクについても報告されていることから,「PPARγ阻害薬を含む経口糖尿病薬の選択方法の在り方も検討課題である」とした。

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 糖尿病患者に対するPDの適応について,川口先生(神奈川県衛生看護専門学校付属病院)は「PDを導入した糖尿病患者と非糖尿病患者の長期予後をみると,非糖尿病患者よりも糖尿病患者のほうが悪いことが複数の研究で示されている。また,糖尿病PD症例および糖尿病HD症例の予後をみると,短期予後はほとんど差がないものの,長期予後ではPD症例においてより突然死が多いことが報告されている」と紹介。しかし,「生命予後の基準のみで療法選択することについては疑問を感じる。年齢やライフスタイル,患者自身の満足度を勘案すべきではないか」との見解を示した。
 一方,木村先生(仙台社会保険病院)は,糖尿病のなかでも組織学的にみて動脈硬化タイプ(腎硬化症タイプ)に関してはPD適応としているが,ネフローゼタイプは体液管理が問題になる可能性が高いことからPDは導入していないと紹介した。これに関して吉川先生は,「ネフローゼタイプで体液管理不良であった糖尿病症例に対してNIPD(nightly intermittent peritoneal dialysis)を施行したところ,除水量が増え,利尿薬の併用などにより残腎機能も保つことができた経験がある」と述べ,ネフローゼタイプについてもPD適応となりうる可能性を示した。




症例2 導入早期より貧血,水分コントロールが
困難であった糖尿病の1症例
加藤 謙一 先生(昭和大学医学部腎臓内科)

 糖尿病性腎不全患者の生命予後は,非糖尿病性腎不全患者に比べて明らかに不良であることが知られている。また,血液透析(HD)患者のうち糖尿病患者では,非糖尿病患者に比べて透析前ヘマトクリット(Ht)値が有意に低いことも報告されており,糖尿病性腎不全患者の貧血は生命予後とQOLの観点から重要な問題であるといえる。そこで,加藤先生は,PD導入早期より貧血および水分コントロール困難であった糖尿病症例について報告した。


残腎機能低下・コンプライアンス不良の
糖尿病症例に対するPD適応の是非
 症例は,38歳男性。主訴は,浮腫,全身倦怠感,嘔気。既往歴は,高脂血症(30歳),糖尿病性網膜症(32歳),高血圧(35歳)。24歳時,検診で高血糖を指摘され近医受診,以降食事療法,経口血糖降下薬にて治療を行っていた。35歳時,BUN 23.9mg/dL,Cr 2.3mg/dL,尿蛋白(3+)となり昭和大学腎臓内科受診。その後徐々に腎機能が悪化し,Ht 27.4%,BUN 96.8mg/dL,Cr 13.4mg/dLで平成16年 3 月23日入院となり,利尿良好であったため 4 月 5 日よりPDを導入した。
 導入時,PETカテゴリーはlow averageであり,4 月20日,1.5%ブドウ糖透析液 2 L× 4 回/日とし,クレアチニン・クリアランス(Ccr)63.24L/週,Kt/V 1.48で退院となった。
 以降,外来にてフォローアップしていたが,体重が徐々に増加し,心不全症状のため 9 月24日再入院となった。再入院時,Ht 21.6%,pO2 258.7mmHg,胸部X線写真にてCTR 66%と,著明な貧血,低酸素血症,溢水を認めた。しかし,貧血の明らかな原因は断定できず,希釈性もしくは尿毒症の影響が疑われた。なお,低アルブミン血症はむしろ改善傾向を示し,CRPは常に軽度陽性であった。
 そこで,利尿薬を増量し,イコデキストリンを使用したCCPD(Continuous Cyclic Peritoneal Dialysis)に変更したところ,除水量は増え,透析効率も改善したが,残腎機能の低下が著明で,total clearanceは低下,依然貧血も続いている。これまでに,患者の生命予後,QOLを考慮するとHDへの移行も検討されたが,食事療法などへのコンプライアンスが不良で,「仕事が忙しい」との理由から外来での検査・入院によるコントロールも拒否的であるにもかかわらず,患者はPD継続に固執しているという。
 以上のことから,加藤先生は「患者の貧血,水分コントロール不良は,残腎機能の低下によるものと考えられるが,患者の生活習慣や食事療法のコンプライアンスの悪さや性格も重要な問題と考えられた」とした。さらに,「このような状態にいたることが事前に予想されるのならば,HDで導入したほうが患者の予後とQOLを改善しえたのではないかとも考えられる。糖尿病性腎不全患者のなかには,いくら教育を行っても耳を貸さないコンプライアンス不良患者も存在する。そのような患者を,医学的に正しいからという理由でPD導入してもよいものなのか,その基準について検討したい」と述べるとともに,春木繁一先生の文献を引用し,糖尿病性腎不全患者は数々の「喪失体験」から複雑な精神構造となっていることについても言及し,発表を結んだ。

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 提示された症例について,川口先生は「食塩摂取に関しては,『 1 週間で,これだけの除水量が確保できれば,これだけの食塩を取ることができる』と具体的な数値で示すことにより,コンプライアンスが改善するのではないか」と提案。また,「どうしてもPDに固執するのならば,1 週間に 1 度,ECUMによる除水を行うことも一案である」とした。  長谷川先生(昭和大学藤が丘病院)は「透析不足が原因で重度の貧血に悩んだPD症例を経験した。HDを併用することにより良好に管理できるようになった」と自身の経験を紹介した。その他,HDを組み合わせた併用療法の導入については,複数の先生方から提案があった。



講義 糖尿病性腎不全のPD
― 臨床的に考慮すべきこと ―
栗山 哲 先生(東京都済生会中央病院腎臓内科)

 現在,わが国の維持透析患者は22万人を超えており,その原因疾患の約 4 割を糖尿病が占める。糖尿病は,虚血性心疾患の合併頻度もきわめて高く,透析患者のうち糖尿病性腎症患者は特に予後が悪いことが知られている。また,UKPDS(United Kingdom Prospective Diabetes Study)では,血糖および血圧の厳格な管理により糖尿病患者の合併症リスクが低減したことが明らかにされた。そこで,栗山先生は,糖尿病性腎不全のPD患者に対する血糖および血圧管理の在り方について解説した。


血糖管理:食事,インスリンと血糖降下薬(OHA)
 まず,栗山先生は,糖尿病性腎不全PD患者の血糖コントロールの主軸となる食事療法の注意点,さらにインスリン療法および血糖降下薬(OHA)の適切な使用法について解説した。
 食事療法に関しては,透析液の持続的糖負荷が糖・脂質代謝に影響することから,透析液のエネルギー負荷を勘案して摂取カロリーを算定する必要があるとした。
 また,OHAに関しては,SU薬やインスリン感受性増強薬,αグルコシダーゼ阻害薬などは使用可能であるが,腎排泄型のビグアナイド薬は使用不可であり,「OHAは一般的に薬物が体内蓄積し,遷延性低血糖を起こす可能性があるために避けたほうが無難」との見解を示した。
 インスリン療法については,近年,頻回に血糖値を測定し,日内変動に合わせて厳格な血糖コントロールを行う強化インスリン療法が注目されており,「難治性患者の多い糖尿病PD患者に対してこのような方法も検討する必要がある」とした。また,最近発売された超速効型インスリンは皮下での吸収が早いため追加分泌の形成にきわめて有利であることから,糖尿病PD患者のインスリン療法において有用であるとした。
 糖尿病PD患者の血糖管理目標値については,これまで大規模研究が行われたことがなく,各施設で創意工夫しているのが現状だが,栗山先生は「空腹時血糖値≦120mg/dL,2 時間値≦200mg/dL,HbA1c≧6.5%」を目安の値として提案。「これらを満たすことができれば,OHAによる管理も考慮してよいが,基本的にはインスリン療法を第一に考慮すべき」と述べた。
 また,糖尿病PD患者の血糖管理の指標としては,「糖化アルブミン(GA)が血糖変動の激しい患者にも適しており,エリスロポエチンの影響もうけないため,最も望ましい」と述べた。


血圧管理:V-factorとR-factorの概念と管理法
 近年,高血圧治療の領域では,外来血圧だけでなく,仮面高血圧や早朝高血圧などを視野に入れた血圧管理が重要であるとの認識が高まりつつある。PD患者においても,血圧レベルが上昇し,治療抵抗性になりやすいだけでなく,早朝高血圧やnon-dipper型が高率にみられることから,これらのリスクを視野に入れた血圧管理が必要になるとした。
 さらに,糖尿病PD患者では,血圧調節の二大機序であるVolume (V)-factor(体液量依存性)とRenin(R)-factor(レニン依存性)のうち,V-factorの関与が大きいことから,体液量を抑制するために利尿薬,Ca拮抗薬,α1遮断薬などの“V-drugs”の使用を推奨した。
 一方で,レニン活性(PRA)を調べると,糖尿病性腎症において最も組織レニンが亢進していたことから,糖尿病PD患者に対してはV-factorだけでなくR-factorの関与も見据え,レニン‐アンジオテンシン(RA)系抑制薬などの“R-drugs”の併用により降圧をはかることが必要であると述べた。
 さらに,済生会中央病院のPD患者28例に対して,V-drugを朝から昼間帯に,R-drugを夕刻帯に投与し,α1遮断薬を就寝前に投与する併用療法を行ったところ,管理良好群が11%から37%に増加した一方,管理不良群が42%から30%に低下したことから(図 1),投与時間を工夫することも重要であると述べた。





 最後に栗山先生は,イコデキストリン透析液の使用は血圧および血糖管理において有用であると述べた。その理由として,血圧に関しては,(1)長期にわたる確実な除水・脱塩によるV-factorを抑制,(2)腹膜炎時のhigh transporter状態でも除水を確保,(3)限外濾過増加による降圧効果,(4)溶質除去増加による透析効率の向上 ― が期待できること,血糖に関しては(1)腹膜へのブドウ糖負荷がなく,カロリー負荷を抑制,(2)高血糖,高インスリン血症の抑制,(3)GDP産生が少ない,(4)脂質代謝に有利 ― などを挙げた。

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 糖尿病患者では腹膜透過性が亢進するといわれている。講義後の総合討論では,腹膜透析液の糖毒性の影響を含めたその機序を問う声が上がった。これに対し,栗山先生は「その機序は明確でない」とする一方で,自身の経験では非糖尿病症例と比べて糖尿病症例で透過性が亢進していた経験はそれほど多くないとした。また,このことに関して川口先生は,「今後わが国でも糖尿病・非糖尿病患者における腹膜透過性をPETにより経時的に多施設研究を行うことで,実際に糖尿病患者の腹膜透過性が高いのかを明らかにし,その機序を解明していく必要がある」と述べた。
 また,ネフローゼタイプの糖尿病患者に対するPD適応の是非について,栗山先生は「管理しにくいネフローゼタイプに対するPD導入に関しては,われわれも導入の是非について討議し,個々の症例に応じて導入の採択を決めている」とした。
 その他,インスリンおよびエリスロポエチンの使用における留意点を問う質問に対しては,「 1 日 4 回血糖値を測定し,インスリン使用量を適宜調整すること」「エリスロポエチン使用下では赤血球のターンオーバーが早くなり,HbA1cが0.4%程度低値を取ることに注意を払う必要がある」と述べた。





■ セッション2:骨代謝

症例1 PD患者における二次性副甲状腺機能亢進症の治療と
Ca, P管理
石田 真理 先生(仁友会石田病院内科)

 透析患者において,活性型ビタミン(Vit)D欠乏,カルシウム(Ca)およびリン(P)代謝障害に起因する二次性副甲状腺機能亢進症(2nd HPT)あるいは副甲状腺機能低下症(hypo PTH)を来すと,骨代謝の異常が進行し,血管の石灰化や異所性石灰化が起こり,心血管疾患の合併にいたることもある。石田先生は,通院回数が少なくて済むというPDの利点を生かしながら,Vit D静注製剤と経口薬を組み合わせて2nd HPTの治療を行った症例について報告。あわせてPD患者におけるCa,P管理の在り方を検討した。


OCT静注と経口カルシトリオールの併用を試みた2症例
 石田先生は,2 週に 1 回の来院で済むというPDの利点を生かしながら2nd HPTの治療継続するために,2 週に 1 回のマキサカルシトール (OCT)静注と経口カルシトリオールの内服療法を組み合わせることが効果的ではないかと考え,この併用療法を試みた症例のうち代表的な 2 症例を示した。
 症例 1 は,48歳の女性。PD歴12カ月。IgA腎症で,PD導入時までの経過が10年と長い症例で,経口Vit D製剤は内服していたが,徐々にintact(i)-PTH値が上昇し,OCT静注療法を開始した。そこに経口カルシトリオールを併用したところ,i-PTHが良好にコントロールできた(図 2)。





 症例 2 は,50歳の男性。透析歴は,HD 7 年11カ月,PD16カ月。度重なるシャント不全でPDを選択し,透析中はOCT静注療法を行っていた。3 腺腫大が認められたため,副甲状腺摘出術(PTX)を勧めたが,拒否。PD導入後,OCT静注療法と経口カルシトリオールの併用療法を試みたが,i-PTHのコントロールは困難であった(図 3)。





 石田先生は,以上の通り報告したうえで「症例 1 のように,i-PTH<500pg/mLのびまん性過形成と考えられる症例では,OCT静注+経口カルシトリオールの併用療法が有効であり,2 週に 1 回のOCT静注でも経口Vit D製剤との相乗効果が期待できると思われた。一方,長期透析例で,結節形成と考えられる腫大腺を持つ症例については,この併用療法のi-PTH抑制効果は低かった」と結論した。
 さらに石田先生は「PDでは,Ca,Pバランスを保ちやすく,血管の石灰化の進行が遅い可能性がある。したがって,骨代謝の維持についてはPDが有利である可能性があり,生命予後への好影響が予想される」との見解を示した。

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 症例報告後の質疑応答では,PD患者のP管理に関して,「HDの場合はHD後に下がるが,PDでは変化が少ないため,PDのPの目標値はHDよりも下げるべきではないか」との意見があった。これに対し,石田先生は,「Pの平均値の高低よりも,一時的にでも高値となること自体が,副甲状腺に直接的な刺激を与え,問題となる」としたほか,フロアから「Pの血中濃度は,HDの場合,立ち上がりが早いので単純に比較できないのではないか」との発言があった。
 また,保存期のVit D製剤使用に関して,窪田先生(貴友会王子病院)より「昭和50年代後半以降,保存期におけるVit D製剤使用が認められるようになったが,尿中Ca量の管理を厳密に行わないと腎不全が進行する恐れがある」と注意を促した。また,先生らが行っている腹腔内にOCTを貯留する方法(IPOX ; Intra Peritoneal administration of OXacalcitol)についても紹介し,「個々に合わせて適用量を見極めなくてはならず,貯留時間にも注意を要するが,頻回に来院して静脈注射を行う必要がないという大きなメリットがある」と述べた。




症例2 PD患者に発症した原発性上皮小体機能亢進症の1例
山中 正人 先生(高松赤十字病院泌尿器科)

 山中先生は,経口Vit D投与,OCT静脈投与などの内科的治療では改善がみられなかった原発性上皮小体機能亢進症のPD患者の症例を示し,「 1 腺のみの腫大が確認でき,低Ca血症や高P血症などが認められず,内科的治療に抵抗性を示す場合には,PTXが標準的治療となりうる」との見解を示した。


原発性上皮小体機能亢進症に対するPTX適応基準
 症例は,57歳の男性。既往歴は脳出血( 3 年前)。腎硬化症による慢性腎不全に対し,7 年前にPDを導入した。4 年前より血清i-PTH値の上昇が認められ,経口Vit Dの投与を開始したものの改善されず,1 年前よりOCTの静脈投与を開始した。しかし,高Ca血症のため治療の継続が困難で,PTXを目的として入院となった。
 超音波所見にて 1 腺の著明な腫大が認められたが,その他腫大した上皮小体を示唆する所見は認められなかった。入院時検査では,アルブミン(Alb)3.3g/dLで低蛋白血症を認めたが,低Ca血症はなく,高P血症も軽度であった。また,i-PTHは570pg/mLと高値を示していた。
 術中所見では,右上の上皮小体は1,073mgと著明に腫大していたが,他の 3 腺の腫大は軽度であった(図 4)。病理組織検査では,右上腺で線維性結合織の増生をともなう主細胞の増殖結節が認められ,parathyroid adenomaと診断された。手術後はVit D製剤と沈降炭酸Ca製剤の内服を開始したが,術後 4 日目にテタニー症状が出現し,一時Ca製剤の静注を必要とした。その後は,血清Ca,P値も落ち着いている。





 原発性上皮小体機能亢進症を示唆する所見としては,(1)1 腺のみの腫大が画像上確認できる,(2)腎不全の経過中に低Ca血症,高P血症などの上皮小体の二次的な分泌刺激となりうる因子を認めない,(3)胃切除,肝硬変など,骨軟化症を来すような基礎疾患を有さない,(4)組織学的に腺腫である ― などが挙げられる。本症例の場合,1 腺のみが著明に腫大し,経口活性型Vit D治療前に低Ca血症はなく,高P血症も軽度であった。また,内科的治療にも抵抗性であった。病理組織検査では腺腫であった。以上から,本症例は原発性上皮小体機能亢進症と診断された。
 このように報告したうえで,山中先生は「腎不全患者でPTH高値を認めた場合でも,1 腺のみの腫大が画像上確認でき,腎不全の経過中に低Ca血症や高P血症などの上皮小体の二次的な分泌刺激となりうる因子を認めず,内科的治療に抵抗性を示す場合には,原発性上皮小体機能亢進症を疑うべきである」と述べ,「これに対する標準的治療はPTXであり,本症例では外科的処置を選択すべきであると思われる」と結論付けた。

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 本症例の今後の治療戦略について,川口先生は「癌の可能性も拭いきれないことから,PTXを行うべきである。なお,手術の際は 1 つでも細胞を落とさないように細心の注意が必要である」とした。一方,山本先生(東京慈恵会医科大学)は「どのような治療戦略を取るかは,QOLに及ぼす影響をも鑑みながら,個々の判断に委ねるべきである」としながらも,「PEIT後のPTXは難渋する。1 腺のみの腫大の場合,PEITの有効性はきわめて高く,このような場合はPEITが推奨される」と述べた。



講義 PD患者における骨代謝
― 二次性副甲状腺機能亢進症の治療を中心に ―
笠井 健司 先生(富士市立中央病院腎臓内科)

 長期透析患者における代表的な合併症の 1 つに,骨代謝異常が挙げられる。なかでも,Ca,P代謝異常に起因する二次性副甲状腺機能亢進症(2nd HPT)は,進行すると骨関節痛や異所性石灰沈着を進展させ,透析患者の生命予後も悪化させうる合併症である。笠井先生は,二次性副甲状腺機能亢進症の治療法について整理するとともに国内外の最新知見を紹介。さらにPD患者における 2nd HPT治療の課題を提示した。


最近の外科的および内科的治療の進歩
 2nd HPTの治療法を大別すると,保存的治療として高P血症および低Ca血症の是正および活性型Vit D製剤の投与,中間的治療として経皮的副甲状腺エタノール/カルシトリオール/マキサカルシトール注入療法(PEIT / PCIT / PMIT),そして手術療法としてPTX+自家移植がある。
 中間的治療法の有用性は広く認められているところである。一方,手術療法に関しては,びまん性過形成から結節性過形成にいたれば適応となる。冨永の見解では,i-PTH 高値(500pg/mL以上)で,画像診断にて腫大腺の存在が確認され,種々の随伴症状があればPTXを実施すべきであろうとしており,この時期をpoint of no returnとして見極め,手術を施行することが重要であるとしている(図 5)。





 なお,透析患者における2nd HPTの保存療法においては,高P血症の抑制,血清Ca濃度の維持,ビタミンD製剤の投与を 3 つの柱とした内科的治療が中心となる(図 6)。笠井先生は,近年登場した代表的な治療薬について,自身の使用経験をふまえながら次の通り紹介した。





 まず,2000年 9 月に上市されたマキサカルシトール(OCT)は優れたPTH抑制作用を持つとされており,実際,i-PTH値 300pg/mL以上の患者に投与したところ,i-PTHが劇的に低下することが確認された。
 01年 6 月に上市されたカルシトリオールは,中等症の2nd HPTにおいてOCTとほぼ同等のPTH低下効果が得られたが,自験例ではOCTは投与量を減量できる一方,カルシトリオールは一定用量を維持しなければならないなど効果に若干の相違が認められた。
 03年 6 月に発売された塩酸セベラマーは,一期的に炭酸カルシウムからセベラマーに切り替えた場合,血清カルシウム値の低下とi-PTHの上昇がみられ,約半数で副作用としての消化器症状も起こってしまったが,Ca製剤との併用により,この問題は回避できると考えられる。
 i-PTH値の分布をみると,HD患者の成績ではあるが,上記の新しい薬剤の登場前には150〜300pg/mLという適正レベルにある患者の比率は15.1%に過ぎなかったが,その導入後には25%に上昇し,60〜150pg/mLの範囲の患者比率も30%強に上昇した。
 その他,わが国では未承認ながら,すでに欧米で用いられているCa感受性受容体アゴニストCalcimimeticsは,Ca受容体に対するCa2+の作用にmimickingし,低Ca状態であっても十分なCa2+があるかのごとくPTH分泌が調節される。その製剤は,経口投与で有効な低分子化合物であり,強力なPTH分泌抑制作用やPTH生合成抑制作用,さらに副甲状腺細胞増殖抑制作用を有するといわれており,その臨床効果が欧米の治験から示されている。とりわけPD患者の2nd HPT治療には期待される薬剤である。


今後の課題
 続いて笠井先生は,PDにおけるCa代謝に関する問題点として,(1)本当に低回転骨が多いのか,(2)異所性石灰沈着はHD患者よりも進行しやすいのか,(3)K/DOQIガイドラインで示された血清P値,血清Ca値,Ca×P値,i-PTH値などの治療目標値がわが国にもあてはまるのか,(4)適正な透析液Ca濃度とは何か ― を挙げた。
 特に,透析液については,近年,低Ca透析液が普及しつつあるが,低Ca透析液を使用することによってCaバランスが負に傾き,PTH分泌が亢進する可能性もあるため注意が必要であること,さらに現時点では,わが国で使用されている透析液のCa濃度は2.5mEq/L以下,3.5mEq/L以上のものしかないが,その中間が適正なCaバランスを維持しやすいのではないかとの報告もあることを指摘した。
 なお,PTXの臨床効果については,単に骨関節症状を改善させるだけでなく,冨永によれば長期予後に関しても施行しなかった群に比べて施行した群のほうが優れていたと報告されており,有効な治療法であるとの見解を示した。
 その他,副甲状腺の腺腫・過形成・癌の病理学的鑑別に関しても分子マーカーを用いた報告があることを紹介した。

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 総合討論では「PD患者に塩酸セベラマーを使用したところ,便秘などの消化器症状を来しやすいとの印象をもった」との声が上がった。この点について,笠井先生は「PD患者に対して塩酸セベラマーを投与する際にも,漸増法を用いると消化器症状を来しにくい」とした。
 また,Ca代謝の問題に関しては,PDは透析液中のCaが持続的に影響することから,HDに比べてCa代謝への影響が強いと考えられる。川口先生は「わが国では低Ca透析液の上市の際,日本人は他国に比べてCaの摂取が少なくPの摂取が多いので,炭酸Caを多く使用することができるように透析液Ca濃度が2.5mEq/Lに設定された。低Ca透析液の使用によってCaがネガティブバランスになる可能性もあることに留意すべきである」と指摘した。この点については,石田先生も,「Vit D製剤,塩酸セベラマーなど使用する薬剤の影響にも注意しながら,透析液Ca濃度の個別処方が望ましい」との見解を示した。





■ セッション3:心血管系

症例1 急性冠症候群により突然死したと思われる
CAPDの1例
佐藤 弘章 先生(星ヶ丘厚生年金病院循環器科)

 心血管系疾患は,透析患者の死因として最多であり,透析患者の高齢化や糖尿病性腎症から透析導入となる患者が増加していることから,その予防と治療の重要性が増している。佐藤先生は,急性冠症候群(ACS)により突然死したと思われるPD症例を紹介し,問題提起した。


肥満,糖尿病歴,脂質代謝異常,
急激・過度な除水がACS発症に影響した可能性も
  症例は,71歳男性。35歳時に 2 型糖尿病と診断され,54歳時に経口血糖降下剤による治療を開始。63歳時にはインスリン療法を開始し,さらに 2 年後には糖尿病性腎症の末期腎不全により腎代替療法の導入が検討された。
 当初,血液透析が考慮されたが,動脈硬化が高度でありAVF作製が困難であったため CAPDが選択された。導入後は,HbA1c 5.1〜7.2%,HDL-C 33mg/dL前後で推移し,体重は 6 年間で14kg増加していた。
 CAPD導入から 6 年目の 71歳時,労作時呼吸困難の自覚症状を訴え,胸部レントゲンで心拡大と肺うっ血が認められたため,うっ血性心不全と診断され入院。この時,BMI 27.8,CTR 55%,EF 69%であったが,心電図には有意なST-Tの変化は認めず,心エコーでもLVDdがやや大きく,僧帽弁の後尖に軽度の硬化を認めるものの,特筆すべき異常所見はなかった。TCも入院以前から正常範囲内であった。
 溢水状態にあることが心不全の原因と考え,それまで1.5%透析液 2 L× 4 回/日で行っていたCAPDを,入院後は2.5%透析液 2 L× 5 回/日に変更した。その結果,総除水量は 1 日1,000〜1,300 mLで推移し,呼吸困難が改善したため,徐々にもとの透析処方に近づけるよう試みた。なお,改善をみない咳嗽のため15病日目に施行した胸部CTでは,高度の冠動脈石灰化が認められた。
 第25病日早朝に歯痛を訴えたが,NSAIDを投与し,改善。しかし,28病日早朝に再び歯痛を訴えたため鎮痛薬を投与したが改善せず,血圧の著明な低下を示した。心電図でST低下を認め,まもなく心室頻拍を呈し,死亡した。
 ACSは,冠動脈粥腫の破裂・崩壊とそれにともなう血栓形成から,冠動脈閉塞や高度狭窄を来す症候群である。透析患者では冠動脈の石灰化を高頻度に認めるが,石灰化の程度とACSの罹患率は関連する。しかし一方で,ACSの最大の原因は不安定プラークであるため,冠動脈の狭窄や石灰化が高度な部位が必ずしもACSの責任病変とはならない。
 心血管系合併症の危険因子のうち腎不全症例に特有なものに,蛋白尿,細胞外液量増加,Ca・P代謝異常などが挙げられる。本症例は,これらの項目に関しては,CAPD導入 6 年目としては比較的良好にコントロールできていた。一方,本症例でACSの危険因子として考えられるものに,肥満,長期にわたる糖尿病歴,脂質代謝異常などが挙げられるほか,急激・過度の除水が血栓形成を助長し,ACSにいたった可能性も否定できない。
 佐藤先生は,以上の通り報告したうえで,「心血管系合併症は,末期腎不全患者の最大の死因であり,CAPD例においても厳重な予防と管理が必要である」と結んだ。

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 本症例では,心不全による入院後,体重は0.6kgとわずかに減少していた。このことについて,杉本先生(三井記念病院)から,「胸部X線および心電図に異常は認められないように見受けられたが,体重の変化がわずかであるにもかかわらず,症状が改善していることに疑問を感じる。虚血性心疾患(IHD)が心不全を誘発した可能性を含めて検討する必要はなかったか」との質問があった。これに対し,佐藤先生は「体重減少がわずかであったのは,肥満ではなく過剰体液がサードスペースにあったことが主な原因であると判断した」と述べた。
 その他,フロアからは「イコデキストリン透析液を用いて積極的に除水をする方法も有効では」との意見があった。




症例2 CAPDの心機能に及ぼす影響と導入前後における
心臓超音波検査の有用性の検討
井尾 浩章 先生(順天堂大学腎臓内科)

 CAPDは循環動態への侵襲の少ない透析法であると考えられており,これまでにも 3 年以上の長期継続CAPD患者における滞液・排液時の心機能評価の検討,導入時と 3 年時での心機能評価,さらに心疾患合併における心臓超音波ドプラ法の有用性が報告されている。そこで井尾先生らは,CAPD患者を対象に,心臓超音波ドプラ法によりCAPD導入前後における心機能を評価した。


CAPD導入後は心臓超音波検査を用いた
定期的な心機能評価を
 対象は,慢性糸球体腎炎を原疾患とするCAPD症例10例(平均年齢45.1±9.4歳)。器質的心疾患を有さず,CAPD導入時に著明な心機能低下を認めない症例に限った。
 井尾先生らは,透析導入時( I 期)と導入約 1 年後(II 期)において,心臓超音波検査を施行したほか,hANPおよび心胸比,血圧を測定し,心機能を評価した。なお,II 期においては滞液中と排液後に心機能評価を行った。
 その結果,I 期と II 期の比較において有意差が示された測定項目は,断層心エコー測定項目のうち容量負荷の指標である収縮期心室内腔(LVDs)の減少 ( p = 0.03),左室拡張機能の指標であるE波のピークからの減速時間(DcT)の増加( p = 0.048)ならびに左室収縮能の指標である駆出率(EF)の増加 ( p = 0.05)であった。また,有意差は認められなかったものの,hANP,圧負荷の指標である心室中隔壁厚(IVSth),容量負荷の指標である拡張期心室内腔(LVDd),収縮期血圧において減少傾向が認められた。
 さらに,I・II 期において,hANPと左室拡張機能および容量負荷の各指標との関係を調べたところ,DcT(R=−0.50,p = 0.048),LVDs(R=0.43,p = 0.049),LVDd(R=0.45,p = 0.047),左心房内腔(LAD)(R=0.75,p = 0.003)との間にそれぞれ有意な相関を認めた。hANPが高いほどDcTが短いことをよく「心臓が堅い」と表現するが,こうした傾向が著明となり,hANPが容量負荷の指標に適していることが示唆された(図 7)。





 一方,滞液・排液時の比較については,滞液時に右心系容量負荷の指標である下大静脈径(IVC)の減少を認めたが,その他の指標に変化はなかった。
 井尾先生は,以上の通り結果を示したうえで「CAPD導入後約 1 年の経過では,主に左室の拡張・収縮能の改善を認め,これらの指標とhANPには有意な相関が認められた」とまとめた。さらに,「CAPD導入後に心臓超音波検査を用い,心機能を定期的に評価していくことは,適正な体液量を判断する指標となることが示された」と結論付けた。

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 質疑応答では,心エコーを行うタイミングを問う質問に対し,井尾先生は「定期的な心電図検査で異常が認められた場合には当然心エコーを行う。安定した状態であれば適正な体液量を判断する指標として 6 カ月〜 1 年ごとにfollow up していくのがよいのではないか」と答えた。
 また,「心血管合併症を有する患者に対してPDを行うと体液過剰になりやすいというデメリットもあるため,HDのほうが有用ではないか」との意見もあったが,井尾先生は,「合併症の程度,患者のライフスタイルなどを考慮して選択すべきである」との見解を示した。



講義 透析患者の心機能障害
杉本 徳一郎 先生(三井記念病院腎臓内科)

 透析患者の合併症は心不全が最も多く,次いで感染症,脳血管障害の順で多い。杉本先生は,透析患者の合併症のなかでも特に患者の予後を大きく規定する心機能障害に焦点を当て,その診断および治療法について解説した。


高齢になるほど導入早期にIHDを発症
 心機能障害には虚血性心疾患(IHD)のほか,心臓弁膜症,拡張型心筋症(DCM),内シャントに起因する障害などが挙げられる。
 透析患者の合併症の原因としては,透析開始前から存在する危険因子と,末期腎不全(ESRD)となり透析開始後に出現する危険因子に分けることができる。前者には高血圧,糖尿病,喫煙,高脂血症などが,後者には透析アミロイド症,腎性骨症,貧血,電解質(Ca, IP, K, pH)異常などが含まれる。
 IHD,動脈硬化は透析開始前からの危険因子に大きく依存している。
 そこで,杉本先生らは,過去 5 年間にIHDの診断・治療をうけた透析患者125例について,その基礎疾患[慢性糸球体腎炎38.4%,糖尿病性腎症44.4%,腎硬化症8.8%,その他8.8%]別に検討を加えた。
 まず,IHD診断時の平均年齢は,基礎疾患が腎硬化症の群において70.4±10.1歳と,他の 2 疾患(慢性腎炎:61.0±9.4歳,糖尿病性腎症:62.2±9.4歳)に比べて有意に高齢であった。また平均透析期間は基礎疾患が腎硬化症の群で2.2年,糖尿病性腎症の群で4.0年であったが,慢性糸球体腎炎の群では10.4年とより長期にわたっていた。
 すべての対象症例の透析導入時の年齢とIHD発症までの期間の関係をみると,高齢になるほど導入早期にIHDを発症することが多く,逆に20〜30歳代の若年層では長期にわたる透析期間を経た後にIHDを発症することが多い傾向にあった。


保存期の合併症予防が重要
  次に,83年から02年の過去20年間を 5 年ごとに 4 期間に分け,透析導入患者数の動向を調べたところ,導入患者数は増加傾向にあり,その基礎疾患の割合をみると糖尿病性腎症の割合が増加する傾向にあった。
 さらに,導入患者全体のうち,透析導入前にIHDの既往がある症例がこの10年で増加傾向にあり,すでに冠動脈バイパス術(CABG)やPCIをうけたことのある症例が激増していた。また,透析導入前にPCIを施行した症例の基礎疾患をみると,98〜02年では糖尿病性腎症が 8 割以上を占め,かつ増加傾向にあった。
 一方,透析導入前にIHDと診断された約250例を対象に,IHD診断時から透析導入までの期間とIHD診断時年齢の関係をみたところ,相関は認められなかった。しかし,透析導入時とIHD診断時がほぼ重なっている症例が多かったことから,保存期の合併症予防の重要性が示唆された。
 実際,Shroyer AL らは,CABG施行後30日間の脳卒中発症リスクの指標として,PVD・CVDのほか,腎不全・透析も挙げている。また,加齢とともにCABG後の中枢神経合併症発症率が高まるとの報告もあることから,高齢者が多い透析患者において,これらの合併症の予防は大きな課題となる。
 Bridges CRらも,90〜100歳代の症例におけるCABG後の予後に影響するリスクとして,術前IABPや緊急/Salvageのほか,腎不全を挙げており,「今後10年で,生産性の高い市民としての超々高齢者も急速に増えるであろう。この世代でもEBMに基づき,あらゆる心臓外科的処置が考慮されるべきである」と述べている。杉本先生は,「こうした患者の治療は,今後われわれにむずかしい判断を迫ってくるだろう」と述べた。


確実な体液管理により心筋症状は改善
 心機能低下を見逃さないためには,労作時息切れ,起座呼吸,浮腫,胸水貯留などの心不全の臨床症状を見極めることが重要であるが,杉本先生は,PD患者においてもDCM様の心筋障害が起こりうると指摘。その原因としては心筋虚血,内分泌異常や感染症,ウイルス性疾患などが挙げられるが,特に透析患者では栄養障害にも留意しなければならないと付言した。
 なお,三井記念病院におけるPD症例118例のうち,平均5.2年の観察期間でDCM発症は 3 例(2.5%)であった。いずれの症例も慢性的な溢水状態が主な原因と考えられたため,除水量の確保を徹底したところ心筋症状は改善したという。
 杉本先生は,これらの経験から,「PDを含む透析患者におけるDCMの予防には,適正なドライウエイトの設定,透析間体重増加の極小化( 5 %未満),高血圧の管理などが非常に重要であることを再認識した」と述べた。
 また,「そのために厳格な食塩制限,必要に応じた利尿薬の使用,バッグ交換回数や貯留時間の調整,より除水効果の高いイコデキストリン透析液の使用などにより,体液管理を確実に行なう必要がある」と結論した。

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 講義後の総合討論では,「PD患者のなかには90歳を超える超高齢者もいるが,心血管系疾患を合併し,手術が必要となっても,循環器専門医には高齢であることを理由にCABGやPCIを拒否されることが多い」と訴える声が上がった。これに対し,杉本先生は「年齢のみを基準に手術の適応を検討すべきではないと考えるが,肉体年齢やQOLを考慮すると手術がむずかしい場合もある」としたほか,佐藤先生も「高齢患者の場合,若年患者に比べて石灰化が強いために手技が煩雑になり,コストもかかるため,臨床効果とのバランスにも考慮する必要がある」と述べた。
 また,「PD患者では下肢が少しむくんでいる程度がよいという意見もあるが,心血管系疾患合併例ではむくまないように体液管理する必要があるのか」との質問に対し,杉本先生は「この問題は,ドライウエイトの設定につながると考えられるが,下肢のむくみにはリンパ浮腫など様々な要因が考えられるため,心胸比など様々なファクターから判断すべきである」と答えた。
 その他,濱田先生(順天堂大学)は「PD患者における体液管理を評価したNECOSAD studyでは,収縮期血圧の上昇が左室系の負荷となり左心室拡張を来し,心不全にいたることを示している」と紹介し,「体液管理を厳格に行い,左室系への負荷を心エコーを用いて定量的に評価することが,心血管疾患系合併PD症例の予後の改善に寄与するのではないか」との見解を示した。さらに,川口先生は「溢水状態は残腎機能に悪影響を与える恐れがある。自尿がたとえ100mL程度と少量であっても食塩をうまく除去できていれば残腎機能が保持される可能性があることから,食塩管理も重要である」と述べた。




■ セッション4:合併症

症例1 透析困難症にてCAPD導入後,横隔膜交通症を
認めた一例
鈴木 康弘 先生(岡崎市民病院腎臓内科)

 横隔膜交通症のPD患者における発症頻度はわが国では1.6%であり,PD導入後早期に発症するほど予後不良となりHDへの移行率も高いことが報告されている。その成因は,先天的な横隔膜欠損,リンパ行性のものがあり,後天的原因としては腹圧上昇から横隔膜の脆弱部に嚢胞が生じ破裂するためと考えられている。鈴木先生は,HD継続困難のためPD導入となったものの,導入後早期に横隔膜交通症を発症し,再度HDへ移行せざるをえなかった症例を提示した。


腹部膨満強く,心機能低下のためPD中止に
 症例は69歳女性。01年11月から多発性嚢胞腎による慢性腎不全にてHD導入。人工血管の内シャント閉塞を繰り返し,ブラッドアクセス作製困難のため,右内頸静脈に長期留置カテーテルを挿入していた。一方,心不全を頻回に発症。中 2 日で心不全症状を呈し,週 4 回のHDで管理していたが,カテーテル感染で長期カテーテル抜去となり,ブラッドアクセス作製困難のためCAPDへの移行を考慮し,04年10月29日入院。入院時の身体所見では湿性ラ音が聴取でき,腹部が膨隆していた。胸部X線写真ではCTR 59%で軽度うっ血があり,両側胸水をわずかに認めた。心エコーではEF 28%と心機能の低下を認めた。
 11月 9 日CAPDカテーテル留置術を施行し,15日よりCAPD導入となった。嚢胞腎により腹腔容積が少なく,注液は当初500mLであったが,排液回収がほとんどできず,1 週間後からCAPD液を1.5%から2.5%に変更し,イコデキストリン透析液を併用したところ,辛うじて注液分を回収できる程度の除水を認め,ECUMの併用で体液バランスを維持した。胸部X線写真で右胸水を認め,胸水穿刺にて透析液と同様の組成と判明し,横隔膜交通症と診断。「CAPD導入直後に横隔膜交通症を発症していることから,先天的な解剖学的欠損が示唆された」としたうえで,「CAPD経過中に除水量が増えた原因として,透析液交換量の減少とイコデキストリンの使用が影響したと考えられる」と考察した。なお,本症例ではイコデキストリンのみで除水が得られたが,腹部膨満が強く,心機能低下により手術に耐えられる状態ではないと判断されたため,CAPDを中止し,HDに移行した。この点について鈴木先生は,「本症例では積極的な修復治療は行わなかったが,CAPD継続目的とするなら胸腔鏡下瘻孔閉鎖術は今後積極的に行っていきたい」との見解を示した。

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 本症例の入院時所見では,身長147cm,体重30.8kgであったことについて,長谷川先生は「るい痩が著しいことが気になる。心疾患やカテーテル感染だけでなく,多発性嚢胞腎が食欲不振につながっていたのではないか」と指摘。鈴木先生も「もともと食欲はなかったが,PD導入後はさらに食欲が落ちた。嚢胞腎による腹腔の圧迫が影響した可能性は高い」とした。
 また,「胸腔鏡をやるべきか,その負担を考えると躊躇してしまう面がある」との声に対し,佐藤先生は「横隔膜嚢胞などの器質的異常が考えられる若年患者の場合は,積極的に検討してもよいのではないか」との考えを示した。さらに,川口先生は,「本症例を筋肉である横隔膜のmyopathyとして考えると,栄養不良が影響している可能性が強い。このような栄養不良の症例に対しては,胸腔鏡下手術を行っても修復はむずかしかったのではないか」と印象を述べた。




症例2 長期腹腔洗浄を要したPD離脱患者の一例
木村 朋由 先生(仙台社会保険病院腎センター)

 被嚢性腹膜硬化症(EPS)は,長期PDや腹膜炎による腹膜劣化にともない発症する致命的な合併症である。EPSに対する治療には外科的治療と内科的治療がある。内科的治療には画一された治療法はないが,腹腔洗浄とステロイド療法が有効であるとされている。
 木村先生は,長期PD後にHDに移行し,ステロイド療法に加え,4 年 7 カ月の腹腔洗浄を要した症例を報告した。


EPSの回避
PD期間,除水量などを基準にPD離脱を
  症例は64歳女性。86年12月,多発性嚢胞腎による慢性腎不全のためCAPD導入。92年12月にトンネル感染でUnroofing,93年 4 月に腹膜炎,同年 8 月にトンネル感染に起因したPDカテーテルの交換を行っている。99年 3 月,除水量低下のため当院紹介となりHDに移行した。CAPD歴13年 4 カ月時点でのD/P Crは0.90であった。
 HD移行とともに腹腔洗浄 1 回/日およびプレドニゾロン(PSL)20mg/日の内服を開始した。離脱時はBUN 38mg/dL,Cr 8.12mg/dL,CRP 0.00mg/dL,HrUF 500mL/日,排液400mL/日であった。離脱後より腹痛出現,10日目にCRP 1.59mg/dLと上昇を認めたためpre-EPSを考え,mPSL 0.5g× 3 日パルス 3 クール施行したところ,CRP 0.00mg/dLと改善し腹痛消失。PSL 20mg/日内服と腹腔洗浄 1 回/日を継続した。
 00年11月にはトンネル感染にてPDカテーテルを交換し,翌年 4 月には出口部感染にて抗生剤を内服。PSL 10mg/日内服と腹腔洗浄 1 回/日を継続した。
 02年12月,麻痺性イレウスを発症し,超音波検査およびCTではEPS所見を認めないものの,排液IL-6が2,230pg/mLと高値のためmPSL0.25g× 3 日パルスを 1 クール施行。04年 5 月,化膿性胆管炎で胆嚢摘出手術。7 月,右骨盤骨折にて保存的治療。8 月,再びmPSLパルスを2クール施行,その後,PSL 15mg/日内服を継続。その後,腹腔洗浄を週 1 回に減じたが,10月には排液が30mL/週,排液中IL-6が31.1pg/mLとなり,離脱後 4 年 7 か月でPDカテーテル抜去となった。現在,外来でHD継続中であり,PSL 5 mg/日を継続しているという。
 なお,木村先生らが 8 年以上の長期CAPD後にHDに移行した症例12例を対象に移行時の腹膜機能,PD処方,移行の方法および移行後のステロイドなどの治療の有無とEPS発症の有無について検討した結果,EPS発症例は 6 例で99年 2 月以前に多く,ステロイドと腹腔洗浄の併用を開始した99年11月以降の 5 例にはEPS発症を認めなかった。EPS発症例には(1)合併症のため計画的なHDへの移行ができなかった,(2)D/P Crが高値,(3)腹腔洗浄を行わなかった,(4)ステロイド治療を行わなかった ― などの傾向があり,PD期間,腹膜炎回数,2.5%透析液の使用頻度,除水量には明らかな差は認められなかった。
 仙台社会保険病院では現在,離脱基準を(1)CAPD歴 7 〜 8 年以上,(2)D/P Cr>0.85,(3)除水不良(2.5%液× 4 にてUF<500mL) ,(4)頻回の腹膜炎 ― としているという。さらに,離脱方法については(1)1.5%液で 1 日 1 回の腹腔洗浄,(2)少量のステロイド内服(PSL10〜20mgより漸減),(3)腹痛を訴えるときは中等量のステロイドもしくは250〜500mgパルス治療,(4)腹水量の減少(50mL/日以下)およびD/P Crを参考にカテーテル抜去のタイミングを検討,(5)予防的にワルファリン,トラニラストの内服,(6)定期的に腹水の有無,CRP,赤沈などを測定し,EPSの早期発見に努める ― と紹介した。

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 長期CAPD後にHDへ移行した12例の検討では,腹腔洗浄を行った 6 例のうちEPSを発症したのは 1 例のみであった(図 8)。この点について,「最近,腹腔洗浄の効果を疑問視する論調もあるが,実際にEPS発症を抑制する効果があったと考えるか」との質問があがった。これに対して木村先生は,「サイトカインを洗い流すうえで有効である」との考えを示し,「合併症との兼ね合いもあるが,炎症反応が消失するまで腹腔洗浄を続ける方針である」とした。
 また,この点について長谷川先生は,「腹腔洗浄とステロイド投与を継続して行うことにより感染症を起こし炎症性のイベントを惹起している可能性も否めない。したがって継続期間を見極めることはきわめて難しいと感じている」と発言した。






講義 CAPD合併症について
山本 裕康 先生(東京慈恵会医科大学腎臓・高血圧内科)

 山本先生は,本セッションで示された 2 症例に関する様々なデータを示したうえで,自身の見解を述べた。


CAPD継続のため腎動脈塞栓術など外科手術を
 山本先生はまず症例 1 について,透析困難症に強く影響する残腎機能の評価の徹底と,心機能低下の要因へのアプローチが必要であったのではないかと指摘した。また,3 年間のHDの後にCAPDに移行したが,除水不良を認めた時点での腹膜機能の評価が重要であったと述べた。
 常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)は慢性透析患者の2.5%を占める。嚢胞は腎だけでなく肝,膵にも形成され,さらに大腸憩室,脳動脈瘤,弁膜症など種々の臓器障害に関与すると考えられる。ADPKD透析患者の予後は慢性腎炎由来の透析患者と同等で,主たる死因は心不全だが,約25%と全患者での比率より低値で,むしろ脳血管障害の発症が危惧されるという。
 ADPKDは,嚢胞腎による腹腔容積の狭小化によりCAPDにおける注液量が制限され,透析不足,腹圧上昇を招く。CAPD腹膜炎は憩室炎からの波及が多く,ADPKDの50%以上に大腸憩室があるといわれている。ただし,ADPKDのためにCAPDの長期継続が妨げられるとは必ずしもいえないという。
 腹圧上昇は注液量が 3 L以上になると顕著となる。腹圧上昇にともなう合併症のうち,胸水貯留については,基本的には胸部X線写真,胸水中のブドウ糖濃度・蛋白濃度・乳酸値によって診断する。治療は,注液量の減量やAPDへの変更,PD中止を含めたPD処方の変更のほか,胸腔穿刺,胸膜癒着,外科的修復術(video-assisted thoracoscopic intervention),嚢胞腎の縮小による腹腔内圧低下を目的とした腎動脈塞栓術などが考えられる。しかし,山本先生は「本症例のように残腎機能の低下した症例に対してCAPD/APDでの管理はむずかしい」とした。なお,乳原先生らは,腎動脈塞栓術により腎容積サイズが50%まで縮小し,注液後の腹満が消失し,順調にCAPDを継続できる症例を報告しており,山本先生は「従来の保存的治療に代わり縫縮・胸膜癒着術の有用性も確立しつつある。本症例では腎動脈塞栓術を組み合わせた外科的治療法を検討してもよいのではないか」との見解を示した。


単独の腹腔洗浄はEPS発症を遅延させるだけか
 続いて山本先生は症例 2 をレビューし,EPS予防のための腹腔洗浄およびステロイド療法の可能性を探った。
 EPSを回避するための対策として,腹膜機能,透析期間,腹膜中皮細胞,排液中FDP/IL-6などを目安にハイリスク症例を特定する可能性が挙げられる。また,EPS発症例の70%がCAPD離脱時のカテーテル抜去後に起こっていることから,CAPD離脱およびカテーテル抜去の時期を見極めることが重要であるという。なお,カテーテル抜去前後の腹腔洗浄,ステロイド,抗凝固療法の在り方については今後検討していく必要があるとした。
 現在,東京慈恵会医科大学における腹腔洗浄のプロトコールでは,長期PD施行例(≧60カ月),腹膜機能亢進例(PETでhigh),血清CRP持続陽性例を対象に,PD離脱後 6 カ月間行うとしている(図 9)。





 山本先生らは,腹腔洗浄単独によるEPS発症抑止効果をレトロスペクティブに検討したところ,腹腔洗浄を行っていなかった91〜96年にHD移行時にカテーテルを即抜去した36例中,7 例にEPSが,4 例にpre-EPSが認められた一方で,腹腔洗浄を行った96〜02年でも33例中 6 例にEPSが,2 例にpre-EPSが発症していた。同症例において,6 カ月間の腹腔洗浄前後でD/P Crは下がっており,長期の経過をみると腹腔洗浄はEPSの発症を最大で約 2 年遅らせることができていたが,発症自体を抑制するわけではなかった。さらに,PD離脱時のD/P CrによりHigh群19例,non-High群14例に分け,半年後のEPS発症頻度をみたところ,High群でそのままHighだった11例では 7 例,改善した 8 例では 2 例に発症していた。それに対して,non-High群では 1 例も発症しなかったという。
 一方,EPSに対するステロイド使用に関する代表的なオピニオンは,「短期的な予後改善には寄与しうる。特に病期分類 II〜III期に関しては有用性は高いが,炎症を伴わない病期に進展する癒着に対しては効果は期待できない」というものだ。しかし,現時点ではステロイド単独での功罪は不明であり,「特に長期投与では副作用が危惧される」と述べた。また,ステロイドの適応基準は「ハイリスク症例に対して腹腔洗浄と併用」としたが,「いつから行うかについては検討を要する」とした。さらに,「ステロイドの長期投与よりは,EPS発症時に癒着剥離術を行うほうが予後がよい可能性もあり,この点についても検討を要する」との見解を示した。

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 セッション 4 の総合討論では,木村先生に対し「フィブリンが固まらないようにするために,抗凝固療法が重要な役割を担っていると考えているが,PD離脱の際に予防的に投与する薬剤としてワルファリンを選択した理由と投与量を教えてほしい」との質問があった。これに対し,木村先生は「通常のPDでも状況に応じてワルファリンを使用することがあり,使い慣れていたことが理由。使用量は 2 〜 3 mg程度」と答えた。また,ワルファリンの使用に関しては,「ステロイドと腹腔洗浄とワルファリンの併用が奏効している可能性もあるのではないか」との意見もあった。
 また,川口先生からは,EPSの発症率に関して「最近,川西先生らが行った調査では,PD中止した症例における発症率は2.5%と過去と比べて変化はなかったものの,減少しつつあるように感じている。また,PD療法に携わる医療スタッフが最適な保存療法を行うようになったことからEPSに起因する死亡率も減少している」との印象を語った。




■ セッション5:適正透析

症例1 PD患者のtechnique survivalに影響する要因と
PD導入時の腹膜透過性に影響する要因についての検討
長谷川 毅 先生(昭和大学藤が丘病院内科腎臓)

(1)PD患者のTSに影響を与える因子の検討
 多施設,短期間の大規模研究では,PDのtechnique survival(TS)の危険因子として,導入時の高腹膜透過性,低除水量,低透析量,低血清アルブミンなどが挙げられている。しかし,単施設,長期間の研究では,腹膜透過性,透析量,栄養状態を包括したTSの危険因子は検討されていない。そこで長谷川先生らは,単施設で 7 年間の後ろ向きコホート研究において,PD導入患者のTSに影響を及ぼす導入時の因子を検討した。


有意な危険因子は高腹膜透過性
 対象は,98年から04年に昭和大学藤が丘病院において,新規PD導入した末期腎不全患者62例。04年末日においてTSを判定。TSに影響を及ぼす導入時の因子を,単変量解析とCox比例ハザードモデルを用いた多変量解析にて解析した。解析に用いた導入時の因子は,年齢,性,原疾患,合併症(糖尿病,心血管疾患),PD導入前HD施行の有無,BMI,保存期における推定蛋白質摂取量,血圧,血液生化学検査,GFR,透析量(Ccr),腹膜透過性(Cr D/P)とした。
 検討結果は次の通り。解析対象となった60例中10例がPDから脱落した。症例全体におけるPD継続率は,1 年 : 93.3%,3 年 : 85.8%,5 年 : 60.4%であった。単変量解析では,TSに影響を与えるPD導入時の有意な危険因子は,心血管疾患の合併,PD導入前のHD施行,高腹膜透過性であった。多変量解析では,TSに影響を与える導入時の有意な危険因子は,高腹膜透過性のみであった。また,high transporter群(HT群 : Cr D/P 4 時間値≧0.65)は,low transporter群(LT群 : Cr D/P 4 時間値<0.65)と比較して,PD脱落の相対リスクが3.5(95%信頼区間1.2-11.4,p = 0.02 )であった。PD 5 年継続率は,HT群では28.6%,LT群では73.7%であり,HT群で有意に低かった(図 10)。
 以上の通り報告したうえで長谷川先生は,「PD患者のTSに影響を及ぼす有意な危険因子は,導入時の高腹膜透過性であった」と結論した。






(2)PD導入時の腹膜透過性に影響を与える要因の検討
 続いて長谷川先生は,PD導入時の腹膜透過性に影響を与える要因を検討した結果を報告した。


保存期の厳格な低蛋白食療法により
腹膜透過性の亢進を抑制
 PD導入時の腹膜透過性に影響を与える因子には,人種,年齢,BMIが挙げられているが,導入時の栄養状態,血液検査所見,保存期のタンパク質摂取量まで包括した検討は行われていない。昭和大学藤が丘病院では,保存期に厳格な低蛋白食療法を行っており,海外の研究の対象者と比べてPD導入時に高腹膜透過性の患者が少なく,保存期の蛋白質摂取量と腹膜透過性の亢進に,有意な正の相関が認められたという。そこで,長谷川先生らは,PD導入時の腹膜透過性に影響する因子を,保存期の蛋白質摂取量に着目して検討した。
 対象は,98年から04年に新規PD導入した末期腎不全患者のうち,保存期に 6 カ月以上通院し,蓄尿検査から継続的に蛋白質摂取量を推定しえた52例。
 PD導入時の腹膜透過性(Cr D/P)に影響を及ぼす導入時の因子を,ロジスティック回帰モデルを用いた多変量解析にて解析した。
 その結果,PD導入時の腹膜透過性亢進の有意な危険因子は,保存期の蛋白質摂取量高値(0.1g/kg/日増加あたり,オッズ比5.77,95%信頼区間2.33〜25.23,p = 0.003),血清アルブミン低値(0.1g/dL増加あたり,オッズ比0.74,95%信頼区間0.52〜0.91,p = 0.02),高齢( 1 歳増加あたり,オッズ比1.13,95%信頼区間1.02〜1.31,p = 0.048)であった。
 以上の通り報告し,長谷川先生は「保存期の厳格な低蛋白食療法は,PD導入時の腹膜透過性の亢進を抑制する」と結論した。

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 質疑応答では,TSに影響を与える導入時の有意な危険因子を検討した結果,高腹膜透過性であったことについて,「高腹膜透過性の場合,PD継続を考慮するなどのバイアスがかかる可能性もある。継続に関する医師の判断がどれだけ反映されていたのか」との質問があった。これに対し,長谷川先生は,「残腎機能の消失にともない除水不良となり離脱した症例はあったが,EPSなどのリスクを避けるために早期離脱した例はない」とした。
 また,「低蛋白質療法により尿毒症を抑制し,腹膜機能が温存されていた可能性があるのでは」との意見について,長谷川先生も同意し,「低蛋白質療法を遵守できる患者は腹膜透過性亢進が抑制されるだけでなく,全体的にコンプライアンスもよいため,そのことが好影響を及ぼしていると考えられる」と述べた。一方,「高齢者の場合は厳格な低蛋白食を徹底することは現実的に難しいこともある」との意見も聞かれたが,長谷川先生は「コメディカルとの連携により積極的に栄養指導を行うことが望ましい」と述べた。



症例2 両側腎動脈塞栓術(TAE)を施行した多発性嚢胞腎(ADPKD)腹膜透析患者における腹膜透析効率の変化/PD患者の予後に影響を及ぼす因子
内山 浩一 先生(山口大学泌尿器科学講座)


(1) TAEを施行したADPKD腹膜透析患者
における腹膜透析効率の変化
 ADPKDでは腎の腫大による腹腔内容積の減少,憩室炎,腸管穿孔の危険性から,PDは相対的禁忌であったが,最近,比較的安全にPDが継続できた例も報告されている。また,腎動脈塞栓術によりADPKDの腎腫大が縮小したことも報告されている。そこで,内山先生は,ADPKDの患者にPD導入後,両側腎動脈塞栓術(TAE)を施行し良好な結果を得た症例について報告した。


TAEは特に腹部症状,貧血,低栄養の改善に有効
 症例は,60歳女性。30代前半にADPKDと診断され,1998年にHD導入。02年10月,山口大学にてSMAP法によりPD導入。同年11月,副甲状腺摘出術施行時にカテーテル取り出しを行い,NIPDと週 1 回のHDによる併用療法を開始。03年 2 月にCCPDに変更。同年 7 月,栄養障害が原因と考えられる低アルブミン血症と貧血の治療のためTAE施行。同年 9 月に不完全なTAEによる血流残存が原因と考えられる嚢胞内感染から腹膜炎,エンドトキシンショックを発症し,同年10月に再度TAEを施行。以降,腹膜炎を認めず,2004年の腎移植までPD+HD療法を継続できた。
 TAE施行後 8 カ月における腎の縮小率は右腎55%,左腎58%であった。TAE後,輸血を必要とするほどの貧血と栄養状態は顕著に改善された。また,TAE前後で,腹膜機能には大きな変化が認められなかったが,Kt/Vは2.2から2.9に,Ccrは37.5 L/週/1.73m2から40.0L/週/1.73m2に変化し,透析効率は改善された。なお,PDによる憩室炎,腸管穿孔は認められなかった。
 内山先生は,以上の通り報告したうえで「PDを導入したADPKD患者に対して,TAEは比較的安全な治療法であると考えられ,特に腹部症状,貧血,低栄養の改善に有効であった。TAE後の透析効率の改善は,腎縮小により有効腹腔内容量が増加し,1 回注液量を増加したことや,排液困難が改善したことが寄与した可能性がある」と考察した。


(2)PD患者の予後に影響を及ぼす因子とは?
 従来,適正透析の指標は透析効率であるとされ,DOQI(Dialysis Outcomes Quality Initiative)ガイドラインでは目標値がKt/V≧2.0と示されている。その後,Hong-Kong Reportsで,アジア人ではKt/V≧1.7という欧米より低い目標値が示された。そこで,内山先生は,透析効率以外の適正透析の指標を探るために,PD患者の生存率およびTSに影響を及ぼす因子を検討した結果を報告した。


PD導入時の低アルブミンが予後に対する最も強い危険因子
 対象は,山口大学泌尿器科でPD導入した患者129例。生存率およびTSに影響を及ぼす因子を,単変量解析と多変量解析で解析した。検討に用いた因子は,年齢,性,体格,合併症(糖尿病,心血管疾患),無菌接合装置使用,血液生化学検査値,残腎GFR,D/P Cr,Kt/V,nPCR,腹膜炎罹患回数であった。
 その結果,全症例の生存率は,2 年92.8%,5 年87.9%,TS率は 2 年88.2%,5 年72.8%であった。生存の有意な危険因子は,単変量解析では,高齢,男性,糖尿病・心血管疾患の合併,低アルブミン,高腹膜透過性であった。多変量解析では,低アルブミン(p = 0.0001),心血管疾患の合併(p = 0.006),高齢(p = 0.02)であった。
 TSの有意な危険因子は,単変量解析では,高齢,心血管疾患の合併,低アルブミン,高腹膜透過性,低nPCR,腹膜炎の多発であった。多変量解析では,腹膜炎の多発(p = 0.0035),低アルブミン(p = 0.0091)であった。
 透析効率(Kt/V)は,生存にもTSにも影響を与えていなかった。
 以上の検討結果をふまえ,内山先生は「PD導入時における透析効率は予後に影響を与えない。一方,導入時の低アルブミンは予後悪化の危険因子であった。これは栄養状態のみならず慢性炎症がアルブミン値に反映していることを示唆する」と考察した。

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 内山先生のADPKD症例の報告について,川口先生は「PKDの治療戦略を考えるうえで非常に参考になった」とコメント。特に,注液量は同じであったが腹膜透過性が変化したこと(図 11)については,「腹腔内圧が高いために血流量が変化したのではないか」と推測した。さらに川口先生は「今後,腹膜透過性の変化を検証するスタディのデザインを組む際に参考となる報告だった」と評価した。





講義 Adequacy for PD patients
濱田 千江子 先生(順天堂大学腎臓内科)

 濱田先生は,近年のPDの適正透析に関する研究をレビューしながら適正透析の指標の変遷を振り返り,日本人PD患者における適正透析の在り方を探った。


適正透析の指標を求めて数多くの大規模研究が行われる
 PDにおける適正透析の指標に関する報告は90年代以降数多くあり,その多くがKt/VやCcrを指標とした溶質除去量が予後に影響することを示すものだった。そして,EBMの隆盛とともにPDの適正透析の指標を求めるための大規模研究が複数行われることとなった。なかでも特に注目された研究が,96年に発表されたCANUSA studyであった。
 カナダ・米国合同の大規模研究であるCANUSA studyは,680例のPD症例を対象に,適正透析の指標と臨床結果の評価,さらに溶質除去量(BUN, Ccrなど)に基づいた至適透析量の定義付けを目的に行われた。その結果,溶質除去の指標であるKt/VとCcrが低いほど死亡リスクが高いことが示された。さらに残腎機能が低下すると溶質除去能も低下することが示され,残腎機能維持の重要性が示された。
 この結果をうけて,DOQIガイドラインでは,早期の透析導入を推奨するとともに,透析効率の指標をKt/V 2.0以上,Ccr60L/週が望ましい値とした。
 しかし,その後発表されたADEMEX studyでは,積極的に透析量を調節し溶質除去能を高く保った群と,そうでない群の 2 群で,導入初期の生存率に差がないことが示され,溶質除去だけが適正透析の指標ではないことが明らかになった。
 そのような流れの中で,02年に発表されたNECOSAD studyでは,PD導入初期における生存の危険因子は,年齢,収縮期血圧,creatinine appearanceであり,technique survivalの危険因子は低除水量のみであることが示された。特に収縮期血圧の上昇については,左室肥大を招き,心不全による死亡リスクを高める危険因子であるとしており,血圧コントロールの重要性が示されている。
 一方,近年は人種による溶質除去量の目標値の差を示す大規模研究の結果も報告されている。
 その 1 つであるHong-Kong Reportsでは,溶質除去量がDOQIガイドラインの目標値に達していないにもかかわらず,生存率が欧米患者と同程度であったと報告されている。その背景には,体格・食事・蛋白質分解速度に差があるためと考察された。
 さらにHong-Kong Reportsでは,PD症例をKt/Vが1.5未満,1.7未満,2.0以上の 3 群に分け,予後を比較検討したところ,3.3年間の生存率はいずれの群も80%を超えていたことから,アジア人における適正透析の指標の見直しの必要性が示唆された。



わが国独自の指標が必要
PDからHDへの移行例,併用療法例などでも評価を
 04年にDaviesらが報告したUK reportは,腹膜透過性の亢進が除水不全を招き予後の悪化につながることを示唆した研究として注目を集めた。同研究では,PD導入後初期の腹膜透過性の亢進は除水量の急激な減少にはつながらないが,導入後 4 年以降に亢進すると除水不全に陥りやすいことが示された。特に,高濃度ブドウ糖透析液を使用した群においてその傾向が強かった。
 これに対して,無尿PD患者で,PETを参考に提示したAPD療法を選択した際の予後に影響する因子を検討したEAPOS Studyでは,腹膜透過性やCcrは予後に影響せず,導入時の除水量のみが予後に影響することが示され,除水コントロールの重要性が示唆された。
 また,最近,末期腎不全における高い死亡率の背景にある機序として,MIA(malnutrition, inflammation, and atherosclerosis) syndrome(図 12)が注目を集めている。PD患者では,低栄養,腹膜炎等の炎症,排泄減少によるサイトカインの蓄積,アテローム性硬化のすべてが相乗的に働き,脳血管・心血管イベントにつながるとする概念であるが,濱田先生は「今後PDの至適透析を考えるうえでMIA syndromeを視野に入れることも必要である」と述べた。





 最後に濱田先生は「わが国は他国に比べて長期間PDを行う患者が多いことから,可能な限り長期間にわたって安全にPDを継続するための指標が必要とされる。また,HD選択がほとんどであるわが国では,HDと比較したときのPD独自の臨床的な有用性を示す必要がある。そのために,PDからHDへ移行した症例におけるPDの予後への影響の評価や,HD併用症例の予後評価,さらに,PD導入後の管理の効果をみるために原疾患や年齢から独立した因子を探ることなどが今後求められる」と述べ,講義を結んだ。

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 総合討論では,川口先生が「適正透析を評価する指標の 1 つにQOLを組み入れると,残腎機能の喪失によりPDは継続できなくなるという判断もできる」と指摘。このことについて,濱田先生は「PD導入後の残腎機能には保存期の状況と原疾患が影響することを示唆する報告もあるため,これらの因子も考慮する必要がある」とした。一方で川口先生は,「残腎機能を保持するためには,ACE阻害薬の使用,急激な除水を必要としない水分管理,塩分管理,NSAIDや造影剤のほか抗菌薬,特にアミノグリコシドなど残腎機能に悪影響を与えうる薬剤の回避など,人為的に行えることもある。意識的に残腎機能を保護することも重要」とした。
 また,「ADMEX studyで溶質除去量だけが必ずしも適正透析の指標であるわけではないことが示されるなど,近年,溶質除去は以前ほど重要視されなくなったとされているが,最低限の目標値はどの程度に設定するべきか」との質問に対し,長谷川先生は「Ccr 50L,Kt/V 1.8」,内山先生は「Kt/V 1.7」,濱田先生は「Kt/V 1.7」とした。




■ セッション6:その他

症例1 大綱巻絡に対する治療法の選択
― 自験 6 例からの考察 ―
山川 正人 先生(みなと医療生活協同組合協立総合病院内科)

 PD開始後比較的早期に発症することの多い大網巻絡は,QOLの低下を招き,PD継続を困難にする合併症であるが,その治療法や予防法はいまだ確立されていない。山川先生は自験例をもとに,侵襲が少なく,再発率の低い治療法について検討し「下腹部切開示指挿入矯正法」が標準治療となりうるとの見解を示した。


カテーテル造影で大網巻絡を診断
  山川先生らは,02年 2 月〜05年 1 月の期間に,胸部出口法(SMAP-B)によりCAPDに導入した腎不全患者33例のうち,大網巻絡により注排液不良を来した 6 例を対象に,患者背景,原因,治療経過,再発率に関してレトロスペクティブに検討を行った。
 診断方法については,カテーテル造影により,カテーテル内腔の一部分が造影されない「欠損」,あるいはカテーテル周囲に造影剤が限局して拡散しない「滞留」のいずれかの所見を認め,さらに頻回の生食フラッシングでも改善しないか,一時的に改善しても数日以内に再閉塞する場合を大網巻絡と判定した。また,カテーテル先端が腸骨陵より上方へ変位した「変位」と,カテーテル側孔に一致して限局性の陰影欠損を認める「punched out」を付随所見とした。
  6 例に対する治療は,先端を開いた胆道鉗子で閉塞組織を削り取る胆道鉗子サルベージが 2 回,カテーテル入れ替え術が 1 回,下腹部を切開してカテーテルを矯正後,ナイロン糸で腹膜に固定する「下腹部切開示指挿入矯正法」が 3 回,さらに再発予防として下腹部切開示指挿入矯正法に大網切除を加えた方法が 3 回,バスケットカテーテルによる電気焼灼が 1 回と,計10回行われた。


下腹部切開示指挿入矯正法を第一選択治療に
 その結果,胆道鉗子サルベージを行った 2 例は,一時的に開通したものの再閉塞した。カテーテル入れ替え術を行った 1 例においても,術後数日で再発した。しかし,下腹部切開示指挿入矯正法をのべ 6 回行ったところ,全例とも術後翌日よりfull doseの注液を行ってもリークは起きなかった。このことから,山川先生は「腹部切開示指挿入矯正法は,手術が容易で侵襲が少なく,コンディショニング不要などの利点もあることから標準治療となりうる」との見解を示した。
 また,下腹部切開示指挿入矯正法に大網切除を加えた 3 例はいずれも長期開存しており,「侵襲がやや大きいが,確実な再発予防を期待できるため,再発例に適している」とした。ただし,「大網を還納する際,無理に押し込むと大網が傷付き腹腔内出血を来すため,腹膜切開幅は 4 cm程度取るべきである。また,有効腹膜面積確保の観点から,不要な拡大切除は避けるべきである」と付言した。
 さらに,バスケットカテーテルの電気焼灼を行った 1 例も再発しなかった。この治療法について,山川先生は「長期開存率は低いが侵襲がきわめて小さいため,高齢者などハイリスク患者には試みる価値がある」と述べた。
 大網巻絡の患者側の要因としては大網の長さや透析液に対する反応が強いことが考えられるが,その場合は大網の切除や中性液・低侵透圧液の使用が解決策となると述べた。
 また,カテーテルの要因として,上方変位の後,大網が巻絡することが挙げられるが,カテーテル固定術(PWAT)やself locating catheterの使用が予防策となりうること,また側孔が大きい場合は側孔サイズを小さくするなどの対策が必要であるとした。
 その他,今回の検討症例のうち 2 例では出口作成時のカテーテル吸引操作が一因となった可能性が示唆され,また 5 例では巻絡にカテーテル上方変位を伴っていた。これらのことから,「カテーテル吸引操作は避けるべき」と注意を促すとともに,「上方変位しにくく,大網を吸引しにくいカテーテルの改良が望まれる」と述べて講演を結んだ。

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 質疑応答では,「大網切除により透析効率が変化することはないか」との質問が上がった。これに対し,山川先生は「透析効率への影響は検討していないが,右下 4 分の 1 程度の切除にとどめ,切り過ぎないようにすることがポイントだと考えている」と返答。また,カテーテルの変位による排液不良を予防するための固定方法を問う質問については「固定している患者の発症率をみたうえでルーチンに行う必要性を見極めたい。もし行う場合はPWATが簡便であるため有用であると思われる」と述べた。
 その他,「カテーテルの位置異常を起こす患者は多いにもかかわらず,必ずしも全例で大網巻絡が起こらない理由は何か」との声が聞かれた。これについて,山川先生は「側孔のサイズが大きな要因であると考えられる」とし,「側孔のサイズが一定の大きさを超えると大綱組織を吸い込みやすくなり,巻絡する可能性が高まる」と自身の印象を述べた。




症例2 PD歴11年で,現在イコデキストリン透析液を
使用しPD+HD併用療法を行っている症例
― PDは中止すべきか? ―
小坂 直之 先生(神奈川県衛生看護専門学校付属病院腎疾患専門診療部)

 5 年以上の長期間にわたるCAPD継続や,PETによるhigh-transporter状態の長期持続は,被嚢性腹膜硬化症(EPS)発症の危険因子として指摘されている。一方,近年に登場したイコデキストリン透析液の使用及びPD+HD併用療法により,このような患者でもPDを継続できる可能性が高まり,EPS発症のリスクを視野に入れたPDの継続あるいは中止の判断に迷うことは少なくない。小坂先生は,慢性腎不全で11年CAPDを継続している症例を提示し,PDを中止すべきか否かの問いを会場に投げかけた。


現在はEPSの所見もなし
PDの中止基準は?
 症例は,IgA腎症由来の慢性腎不全で11年CAPDを継続している57歳の男性。93年 9 月よりCAPDを導入し,導入時尿量は800mL/日前後であったが徐々に低下し,96年 8 月ごろより無尿となったためAPDを導入した。
 03年に腹膜炎を 2 回起こし,PETによるD/P Crも0.651から0.705と上昇傾向にあり,EPSへの移行も危惧されたためにHDへの変更を勧めたが,本人はPD継続を希望した。03年10月よりAPDを中止し,イコデキストリン透析液を用いたCAPDに変更(1.5%ブドウ糖透析液2,000mL× 1 +2.5%ブドウ糖透析液2,000mL× 2 +イコデキストリン透析液2,000mL× 1 )。04年 4 月より週 1 回 3 時間のHDと週 5 日のPDによるPD+HD併用療法(1.5%ブドウ糖透析液2,000mL× 1 ,2.5%ブドウ糖透析液2,000mL× 2 ,イコデキストリン透析液2,000mL× 1 )をはじめることにより週 2 日の腹膜休息を行い,現在,経過を観察中であるという。
 なお,現在のBIAにおける浮腫率は,HD前0.353,HD後0.345であり,体内水分量は良好に管理されていると考えられる。また,併用療法開始後,D/P Crは 4 カ月で0.677,8 カ月で0.753と上昇傾向を認め,除水量も1,200mL/日から840mL/日へと低下している。
 02年 5 月から現在までのHtの推移は30%から37%程度まで徐々に上昇しているが,Albは3.4g/dLから3.7g/dLで落ち着いている。UNは若干上昇しているが,Cr,β2Mには大きな変化はなく,04年12月時点でPDのweekly Kt/Vは1.27,HDのKt/V は0.97だった。
 Caは10mg/dL以下,Piは 4 mg/dL前後で推移しており,i-PTHは100pg/mL前後で安定している。また,血液化学検査データにも特に問題はみられない。
 胸部レントゲンではCTRは48%,腹部レントゲンでもイレウス症状などはなく,現在のところEPSの所見は認められていない。MRIでも腎癌や腹膜の石灰化,肥厚などは認められていない。
 このように本症例は現在のところは危険な状態にはないが,5 年以上のPD継続はEPS発症のリスクを高めるとされている中で,すでに11年間PDを継続している。小坂先生は,このままPDを継続すべきか否か,また継続する場合は今後何を中止の基準とすべきかについて会場に問いかけ,発表を結んだ。

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 小坂先生が投げかけた問い,すなわちPDの中止基準については,樋口千恵子先生による講義「その他」に続いて行われた総合討論において活発な議論がなされた。その主な内容は次項に紹介する。



講義 その他―大綱巻絡とPD+HD併用療法を中心に―
樋口 千恵子 先生(東京女子医科大学附属第 2 病院内科)

 樋口先生は,症例 1 ,2 で報告された大網巻絡とPD+HD 併用療法について,これまでになされた注目すべき報告を紹介。それらを整理しながら,現時点における大網巻絡の診断と治療の在り方およびPD+HD併用療法の有用性を探った。


現時点における大網巻絡の原因,診断,治療
  大網巻絡の発生時期および発生頻度に関しては,報告によってばらつきがあるが,Ogungらが21例を対象に行った検討ではカテーテル留置術後 4 週以内に19%が発症したと報告しているほか,Crabtreeらが78例を対象に行った検討ではカテーテル留置術後平均2.5カ月以内に12.8%が発症したと報告している。
 大網巻絡は,カテーテル挿入時の吸引や,カテーテルの骨盤腔内への上方変位などが主な原因とされており,診断法はカテーテル造影や腹部超音波を用いる。
 治療法には,体位変換や腹部マッサージ,食塩液注入,浣腸などの保存的治療があり,これらで改善がみられない場合は,透視下ガイドワイヤーによるα整復術,腹腔鏡下整復術,腹腔鏡下整復術+大網切除,カテーテル内での大網電気焼灼切除,カテーテル入れ替え術などが行われる。Kimらによるとガイドワイヤーによる治療効果は46%,腹腔鏡による治療効果は54 %と報告しているほか,Amerlingらは腹腔鏡による治療効果が93%に達したと報告している。
 予防法には,予防的大網切除術,大網固定術,カテーテル固定術,カテーテルの工夫が挙げられる。Reissmanらは,大網切除術によりカテーテル挿入後28カ月の機械的カテーテル閉塞を 2 %に抑えることができたことを報告しているほか,大網固定術に関してもカテーテル挿入後の機械的カテーテル閉塞の予防に有用であったとの報告が複数ある。また,カテーテル固定術に関しては,深澤先生らが考案したPWAT(peritoneal wall anchor technique)が有用視されており,普及しつつある。その他,Paoloらがテンコフカテーテルの腹腔側先端に12gのタングステンシリンダーがついたセルフロケーションカテーテルが早期カテーテル機能不全の予防に高い効果があると報告しており,カテーテルの工夫も重要であるといえる。


PD+HD併用療法は腹膜休息として有効か
 続いて樋口先生はPD+HD併用療法の位置付けについて整理したうえで今後の可能性について言及した。
 PD+HD併用療法は,PD療法における残腎機能低下患者の溶質除去低下および除水不良への補助療法としてわが国で誕生した治療法であり,02年現在,わが国のPD患者の5.5%に施行されている。併用療法は菊池先生らの報告にあるようにPD単独よりもクレアチニン除去に優れているだけでなく,週 1 〜 2 日の腹膜休息日を設けることによる腹膜障害の軽減効果をもたらす可能性も,友先生らの研究により示されている。
 また,山本先生らもPDのみの症例に比べて併用療法を行っている症例では排液中の中皮細胞面積の増加率が低く,特に併用療法群においては,EPS発症のリスクである350μm2以上の例は非常に少ないと報告しており,腹膜機能を温存するうえで有用であることを示唆している。
 とはいえ,川西先生らは併用療法にも限界があり,EPS発症リスクを常に視野に入れて施行する必要があると指摘している。また,PD療法からの離脱時期として,(1)腹膜透過性亢進(2)排液への巨大中皮細胞の出現(3)排液中CA125濃度の低下 ― を目安にすることを提案している。
 樋口先生は「現段階ではPD中止の判断基準について,結論を出すことは難しい」と述べながらも,「近年登場したイコデキストリン透析液を組み合わせた治療法を含め,PDを継続するうえでのPD+HD併用療法の有用性をさらに検証していく必要がある」との見解を示し,講義を結んだ。

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 この後行われた総合討論では,小坂先生が提示した症例について,改めて活発な議論が繰り広げられた。
 まず,栗山先生は,本症例について「形態学的に腹膜の肥厚や石灰化もみられないことから,1 〜 2 年の短期的なスパンで見れば継続可能。ただし,5 〜10年の長期的なスパンで見ると,中止すべき。中止のタイミングをどこにもってくるかが問題である」と述べた。
 これに対し,山本先生は,「長期症例ではhigh transporterに移行する前に中止することも 1 つの考え方では」と提案した。先生は,「EPSを含めた予想される危険性を,本人と医師がどれだけ許容するかによる」としたうえで,先生らが実施した調査において,high transporterの場合,PDを10年以上継続すると約 3 分の 1 にEPSが発症していたと報告。「本症例はhigh transporterではないが,PD11年目に入っており,腹膜炎の既往もあることからEPS発症リスクは高いといえる」とその根拠を述べた。
 なお,山本先生が所属する東京慈恵会医科大学では,長期症例は積極的に計画離脱させたが,現在も10年以上にわたりPDを行っている症例が 6 〜 7 例あるという。先生は,「離脱後のEPS発症のリスクは,PDを止めることにより生じる可能性もある。高齢者,心血管疾患合併例などでは,体液管理が良好であればPDを継続している」とした。
 一方,川口先生は「本症例では,イコデキストリン透析液の使用により体液管理も良好に行えるようになった。PDを中止することによって逆にEPS発症を危惧するあまり,体液管理不良にならない限り中止しにくい。患者自身も目にみえて悪化が認められない限り離脱の決断がつかない現実がある。無論,経時的にCTとともに腹膜透析液の排液中の細胞,サイトカイン(IL-2,IL-6),CA125をチェックしていくか,そしてPD患者にどれだけ具体的に危険性を提示できるかが課題」とPD中止のタイミングを見極めるむずかしさを語った。
 総合討論の最後には,川口先生を除く参加者19名が「症例 2 においてPDを継続すべきか否か」について挙手により賛否を問われた。その結果,「継続してもよい」としたのは 6 名,「中止すべき」としたのは13名であった。


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