大会会長のTomas Berl(Denver)が,ASNの今後の方針として,他の臨床分野との協調のもとに展開していかなければ社会のニーズに対応できないこと,腎ケアの質の向上が望まれている中で,腎疾患を対象としている腎臓関係学会とはさらなる緊密な関係を維持していかなければならないことを冒頭に述べた。研究に対する学会の助成として4,000万ドルを今後5年間に投入することを表明した。“Art
is I, Science is we”の精神を今こそASNは実践すべきときであると述べ,感銘の深い会長講演であった。
State-of-the-Art Lectureとして,ノーベル賞受賞者のAvram Hershko(Israel)が “The ubiquitin system
for protein synthesis and degradation in cell”と題して講演を行った。彼は細胞内における蛋白合成,分解を制御している多機能を有するUbiquitinを同定した生化学者であるが,近年,本物質の多様な役割,すなわち細胞の多彩な性質を規制する機構の中で何らかの役割を果たしていること,シグナル導入,遺伝子発現,炎症反応,受精卵の発達,アポトーシス,日内変動などに関係していることが判明し,その関与は細胞内において反応の開始,規制,安定性維持についての信号を発する役割を果たしていることを解説した。
午前の“Cardiovascular risk factors and renal disease”と題するClinical Nephrology Conferenceは腎疾患患者の死亡の原因として心血管系合併症が最も頻度が高いことのみならず,心血管系の障害と腎疾患の進行は深くかかわっている,すなわちcardio-renal
syndromeとして,共通の基盤の上に立つとの認識から討論が進められた。この中で最も現実味のある治療薬として,血管の障害をTNF作動にもとづく炎症の結果として捉え,peroxisome
proliferative activated receptor gamma(PPARc)agonist,すなわちインスリン受容体の感受性,脂肪細胞の分化,TNF-aは深い関係を有し,2型糖尿病の発症,心血管系疾患,高血圧症の発現に関与していることが判明し,PPARcの発現を促進し強化させる薬剤(fenofibrate,glitazones等)が強い脚光を浴びていること,私見ではあるが,糖含有の腹膜透析液に曝される腹膜保護に有用性があるのではないかと考えられた。この件にかんして中国から,腹膜炎に際して炎症性メディエーターの発現を抑制する可能性が動物モデルで示されていた(ポスター発表)。
Physioneal(重炭酸/乳酸混合透析液)については,韓国から,本透析液はPET,腹膜透過性に直接影響しないことが示された。また,オランダから,従来の透析液により惹起された腹膜における異常な免疫反応をPhysionealが抑制できるという成績が示された。
そのほか,“Controversies in living kidney donor selection”と題し,生体腎移植の問題点として,肥満を呈するドナーの腎摘出後のリスクについて十分な説明がなされていない現状について注意を喚起する講演があった。ここでは,肥満と腎障害発生について移植のための腎摘出の影響を検証する具体例として今後の観察が必要とされるとの指摘があった。
“Kidney-heart interaction”にかんするシンポジウムでは,Pfeffer(Boston)により腎不全そのものが心血管系疾患の独立した危険因子であることが示された。腎障害の進行とともに心血管系疾患は増加すること,糸球体濾過率(GFR)の推測値,Uprot・Vと心血管疾患の発症率は相関すること,ACE阻害薬,スタチン系薬剤,
b遮断薬はこの関係を遮断できる可能性があるとした。
Burnett(Rochester)は,腎障害の進行とともにバソプレシン(AVP)が上昇していることから,AVP拮抗薬(Tolvaptan)は進行阻止という点で有用性が期待されつつあると述べた。
腹膜透析のポスター発表は腹膜劣化の問題に集約されており,29題が発表された。なかでも注目されたのは,中国からの演題で,PPARc agonistが腹膜劣化抑制に登場してきたことであり,今後の現実的な劣化抑制策として脚光を浴びよう。
今年のHomer-Smith AwardはYale UniversityのW. F. Boronが受賞した。Proximal
cellのvasolateral sideにCO2 sensor,HCO3 sensorの存在が確認されたこと,管腔内でH2CO3=H2O+CO2に分解され,CO2はluminal
sideに存在するアクアポリン(AQP)1を通過して,水とともに再吸収される機構を明らかにした。
Young Investigator AwardはR. Kalluriが受賞した。腎糸球体の病態形成において,TGF-β1/BMP-7の均衡の破綻から線維化/障害が始まるという炎症機転とそれを修復する機能の観点からのアプローチであり,きわめて緻密な実験的検証を積み重ねた業績は「素晴らしい」の一言に尽きる。この炎症機転は血管新生,さらには癌の転移抑止の可能性にまで発展すると述べた。癌の分野ではすでにArrestatin,Tumostatin,Endostatin,Canstatinなどにより血管新生を抑制することで腫瘍の発育阻止が実験的に証明されており,この分野からの腎障害進展阻止の可能性についても言及した。
続いて行われたState-of-the-Art LectureはM. Feldman,Sir R. Mainiにより行われた。前者は慢性疾患の病態発生を多数のサイトカインの上昇という共通言語の立場から捉え,例えば腎障害の進展の場においてもTNF-αは治療の良い目標となると述べた。後者は潰瘍性大腸炎とANCA関連血管炎,SLE,膜性腎症はサイトカインネットワークから一連の病像として捉えることができ,将来の抗TNF療法の可能性を示した。腹膜劣化のプロセスにおいて抗TNF療法―VEGF低下―血管新生抑制という病態進展抑制の可能性があろう。腎臓専門医ではない2名の科学者は,免疫機構と臨床実例としてリウマチを例にとり,まさしく“実験室からベッドサイドへ”という本来の医学のあるべき姿を如実に示した講演であった。このような科学者を招聘するASNの企画もまた賞賛に値しよう。
ポスターによるPD関係の発表は49題であり,主として臨床研究,アウトカムにかんするものであった。米国のPD臨床研究にかんする発表はきわめて少なく,アジア,ヨーロッパからの発表がほとんどを占め,その間隙にメキシコからの発表があった。
Clinical Nephrology Conferenceの1つである“Genetic hypertension and cortical collecting
duct(CCD);What every nephrologists must know”は聞きごたえのあるものであり,特にapparent mineralcorticoid
excess(AME)のレビューは現在の本能性高血圧の中にこの病態が含まれている可能性があり,高血圧,低K血症,代謝性アルカローシスを呈する患者,特に糖尿病があり食塩感受性高血圧については注意を払うべきであるとの提言は興味深かった(Strojek
K, et al: Salt-sensitive blood pressure ― an intermediate phenotype predisposing
to diabetic nephropathy? Nephrol Dial Transplant 2005; 20: 2113-2119)。
Clinical Issues in Peritoneal Dialysisは期待外れで新しいものはなかった。一方,“Atherosclerosis and
vascular calcification in CKD”はきわめて聞きごたえのあるものであり,K. A. HruskaのBMP-7の血管石灰化(VC)抑制作用についてはPiレベルを低下させる作用とともに高P血症と独立した作用を示し,smooth
muscle contactile activityを減弱し,形質転換機構(血管平滑筋細胞の骨芽細胞への形質転換機構)を介してVCを抑制するとした。
Vanholderは,尿毒症物質として知られているグアニジンが単核細胞内におけるTNF-aの産生を促進し,VC発症に寄与すると報告し,注目を集めた。さらに,従来尿毒症物質の~1つとして知られているインドキシル硫酸が血管内皮細胞レベルでVC促進に作用することも報告された。いずれも古典的な神経,造血抑制作用を中心に考えられていた尿毒症物質の新たな血管障害因子として再注目されてきたことは,透析のあり方そのものを再考しなければならない時期に来ていることを如実に物語っている。
また,new uremic compoundとしてphenylaceticacid,dinucleotide adenosinphosphate(adenosin-phosphate-adenosin),diadenosin
polyphosphate,uridine adenosine tetraphosphate,P-cresol,variant angiotensin II(high
affinity to receptor)などEurtoxin groupの研究成果が発表された。ベルギーのグループを中心とした研究活動は,今後の世界の尿毒症物質の研究をリードしていくであろう(Vanholder
R, et al: Chronic kidney disease as cause of cardiovascular morbidity and mortality.
Nephrol Dial Transplant 2005; 20: 1048-1056)。
State-of-the-Art LectureでHarvardのW. Willettが栄養と健康についての広汎なレビューを行った。講演の中でたびたび紹介されたHarvard
Medical School Nutritional Guideはぜひ入手したいものである。PDにかんするポスター発表は23題あり,動物実験と臨床研究が混在した。腹膜炎治療における経験的治療としてciprofloxacin/cefazolinの組み合わせが有効であることがブラジルから示された。
実験的に発症させたE. Coli腹膜炎において,抗菌薬とともにoctareotide(long-acting somatostatin analogue)を投与することにより,UFFの防止が可能となったとの報告は,今後の腹膜炎治療に新しい道を開くかもしれない。
腹膜炎時には血清レプチンが著しく上昇することが臨床例で示され,サイトカインが強力なレプチン分泌刺激であることが確認された(Hong Kong)。米国からの研究発表はほとんどなく,PDにおけるリーダーとしての地位は完全に失っていると判断せざるをえない。
午後のシンポジウム“Novel pathway for prevention of diabetes and obesity ― related renal
and vascular disease”は圧巻であり,Shoelson(Boston)は,サリチル酸はNF-kBを抑制することによりcytokine pathwayを介して形質転換受容体を抑制し,インスリン抵抗性を改善すること(PPARc
agonistと同様な働きを示す),オーストラリアのCooperは,酸化ストレス(高血糖,AGEs,ACE,etc)はgrowth factor/cytokine
pathwayからDM腎症を完成させることを示した。特にintra-mitochondrial AGEsが増加していることからミトコンドリアでの酸化ストレスの増加が細胞障害の本体であるとした。
Danesh(Chicago)はHMG-CoA還元酸素阻害薬がDM腎症の予防となること,PPARc agonist(fenofibrate等)がDM腎症,血管病変の予防につながることを示した。16時からの“Debates
in renal failure”はとても面白く,取り上げた話題はリン吸着薬としてカルシウム含有リン吸着薬を今でも積極的に使用すべきか否か?急性腎不全治療において持続的RRTは間歇的RRTに優るか?という今日的問題が取り上げられた。聴衆の投票による結論は,前者は半々,後者は持続的RRTに賛成する人は少なく,実際に現場を知っている腎臓医が参加者の中に何人いるのか疑問に思え,意外な差であった。なお,16時からのPD
Oral Sessionでは12題発表され,アジア,ヨーロッパからのもののみで,米国からは1題の発表もなかった。
最終日であり,会場は“兵どもの夢の跡”の感があったが,“Pathogenic mechanism of ischemic nephropathy”は聞きごたえがあり,腎血流におけるautoregulationの破綻をきたす限界に焦点を当てたシンポジウムであった。
Wilcox(Georgetwon)は腎血管性高血圧における酸化ストレスについて述べ,新しい薬剤であるTempol(代表的な活性酸素種SOD mimetics)を紹介した。虚血により上昇したアンジオテンシンIIは両面の作用があること,すなわちreactive
oxygen species(ROS)を介した内皮細胞障害─血管収縮を惹起する一方で,NOS産生を亢進させ血管拡張に作用すること,このバランスをいかに生理的状況に維持できるかがischemic
renal diseaseの予防に繋がると説明した。説得力のある内容であった。
今年のASNの全体の感想は,米国腎臓学会ではなく,すでに国際腎臓学会の感がある。透析療法において米国は落日の状況にあるが,一方,臨床状況を念頭に置き,その解決策を基礎医学と共同で組み立てていくエネルギーは衰えることはないと感じた。また,例年のことではあるが,国籍に関係なく一流のscientistをState-of-the-Art
Lectureに招く,ASNのpresidentの考え方は素晴らしいと思う。また,これらの講演を臨床家が熱心に聴いている姿は,より深くより高くを指向する現実の姿であり共感を呼ぶものであった。