T. PDの適正透析に関するガイドライン

腹膜透析ガイドラインとして提唱されている主なものとして、EDTA Best Practice Guidelines for Peritoneal Dialysis (EBPG) 1) とNKF-K/DOQI CLINICAL PRACTICE GUIDELINES FOR PERITONEAL DIALYSIS ADEQUACY UPDATE 20002) 等があり、このうちNKF K/DOQI Guideline for PD Adequacyは2006 Update3) として改訂された。

1. NKF-K/DOQI Guidelines: 2000
NKF-K/DOQI CLINICAL PRACTICE GUIDELINES FOR PERITONEAL DIALYSIS ADEQUACY UPDATE 2000 2) は、8つのchapterに分けられ、その中に32のguidelineが記されていた。このguidelineの中ではopinionとevidenceにわけられ、27のguidelineがopinionとされていた。このうち、evidenceとされているものは2項目のみであり、その項目はChapterU. Measures of Peritoneal Dialysis Dose の中のGuideline 6. Assessing Residual Kidney Function, とChapterX. Adequate Dose of Peritoneal Dialysisの中のGuideline 15. Weekly Dose of CAPDであった。当時はRandomized controlled Trial (RCT) 等が少なく、多くがopinionに基づいたためであろう。
透析量について例を挙げれば、2000年のguidelineでは、PDの適正透析量は腹膜の透過性やmodality別に記載され、High、High AverageではKT/V urea 2.0、Ccr 60L/1.73m2とされ、Low、Low AverageではKT/V urea 2.0、Ccr 50L/1.73m2とされていた。一方、CCPDでは2.1、60L/1.73m2、NPDでは2.1、66L/1.73m2が推奨されていた。

「(National Kidney Foundation Dialysis Outocomes Quality Initiative Peritoneal Dailysis Work Group. NKF DOQI clinical practice guideline for peritoneal dialysis adequacy. Am J Kidney Dis 1997 30 s67-136)。
この値はCANUSA研究の結果と熟練医師のオピニオンを基に設定された。」

さらに適正透析の評価を単に透析量のみで判定するのではなく、Clinical Outcome GoalとしてPatient Survival(患者生存)、Technique Survival(治療継続)、Hospitalization(入院)、Patient-Based Assessment of QOL(クオリティーオブライフの評価)、School Attendance(就学率)、Growth(成長)、Developmental Progress、Albumin Concentration(アルブミン濃度)、Hemoglobin、Hematocrit、Normalized PNAらについても勘案して評価すべきとされていた。

2. EBPG
EDTA Best Practice Guidelines for Peritoneal Dialysis1) では下記のようにされている。

  1. 適正透析の目標値は溶質除去と水分除去の両方を考慮しなければならない。
  2. 目標値はPDのみで達成する値を設定すべきである。
    残存腎機能があれば目標値からその分を差し引くことができる。
  3. 無尿患者での週当たり腹膜KT/Vの目標値を最低限1.7とする。
    また実質除水量の目標値を最低限1L/日とする。残存腎機能があれば、透析効率が不足していてもこれを補完できる。
  4. 目標値を満たしていない場合は、患者に溢水、尿毒症症状、栄養不良がみられないかを注意深くみていく。必要に応じ適切な処方変更を行う。
  5. APDの場合、頻回・短時間での目標値は満たしたとしても、PDでのクレアチニンクリアランスが悪くなることがある。こうした患者の場合はKT/V 1.7を満たすことに加え、PDのクレアチニンクリアランスの目標値は45L/週/1.73m2とする。

このように、適正透析を判定するのに透析量のみでなく、臨床症状と総合して判断するとのことであった。


3. NKF-K/DOQI Guidelines and Clinical Practice Recommendations 2006 Update
Clinical Practice Guidelines and Clinical Practice Recommendations 2006 Update:
Peritoneal dialysis adequacy3)の特色としてはguidelineとrecommendationに分けられ、このguideline / recommendationのグレードをAとBに分けている。
A,Bの定義は下記の通りである。

A: Strong
臨床家が患者にそのガイドラインを適用することが強く求められる。健康上のアウトカムを改善する臨床手法として強いエビデンスがある。

B: Moderate
臨床家が患者にそのガイドラインを適用することが求められる。健康上のアウトカムを改善する臨床手法としてエビデンスがある。

また、腎代替療法をrenal replacement therapy(RRT)からkidney replacement therapyとしている。
その中でClinical Practice Guidelineは6chapterに分けられている。
ガイドライン6. 小児PDを除いたそれぞれの項目について若干の解説をさせていただく。


U. NKF-K/DOQI PDの適正透析に関する臨床実践ガイドライン: 2006改訂 の概要
ガイドライン1. 透析の導入

1.1 腎疾患への対応:慢性腎臓病(CKD)のステージ4(推定GFRで30mL/min/1.73m2未満)にある患者は、腎不全及びその治療法(移植、PD、HD、保存療法)に関し適切な時期に教育を受ける必要がある。患者の家族や介助者にも腎不全時の治療法選択に関し教育がなされるべきである。(B)

1.2 腎機能の評価:GFRの評価は透析導入の判断基準となる。ただ単純に血清のクレアチニンと尿素窒素を測定するのではなく、精度評価された推算式(表1)を用いる、もしくはクレアチニンと尿素それぞれのクリアランスを測定することでGFRを推定すべきである。表2と表3に、推定GFRが干渉を受ける特定の状況をまとめた。(B)



年齢18歳以上ではCockcroft−Gault式、MDRD4,or 6variable式(MDRD:Modificiation of diet in renal disease)、18歳以下ではSchwartz Formulaの式を推奨している。

1.3治療の開始:患者がCKDのステージ5(推定GFRで15mL/min/1.73m2未満)に至ったら、腎臓医は選択した腎代替療法(KRT)のメリット、リスク、デメリットについて評価すべきである。特定の臨床判断や腎不全の合併症 によりステージ5に至る前にKRTを始めることもある。(B)

ガイドライン2. PDの溶質クリアランスの目標値とその測定

ランダム化比較試験(RCT)の結果から、これまでの目標値である週当たりKt/V2.0よりも少ない、最低限での尿素クリアランスが提唱された。それ以上に、患者生存予測における残存腎機能(RKF)の重要性を示唆するエビデンスが増えてきていることから、これまでの目標値は次の通り改訂された。

Hong Kong Studyでは、w-KT/V urea 1.7未満、1.7-2.0群、2.0以上の3群の比較では生存に有意差はなかったものの、医師判断によるPDからの離脱では1.7未満群に多く、w-KT/V ureaは1.7以上必要と結論された
(WK. Lo, Y. Ho, et al. Effect of Kt/V on survival and clinical outcome in CAPD patients in a randomized prospective study. Kidney Int. 2003; 64: 649 - 656)。

無尿患者を対象にしたretrospective研究では、w-KT/V urea1.67-1.8にて生存率が最良であったとされ、無尿患者でもw-KT/V urea は最低でも1.7以上、1.8あれば良好との報告がある
(WK. Lo, SL. Lui, et al. Minimal and optimal peritoneal KT/V target: Results of anuric peritoneal dialysis patients survival analysis. Kidney Int. 2005; 67: 2032 - 2038)。

2.1 RKFのある患者(尿量 > 100mL/日):
2.1.1 最低限満たすべき小分子溶質クリアランスは、PDとRKFを合わせた総Kt/Vとして、最低限1.7/週とすべきである。(B)
2.1.2 総Kt/Vでみる総溶質クリアランスは、透析導入時においては最初の月内に、その後は4ヶ月毎に最低1回は測定すべきである。(B)
2.1.3 残存尿量が100mL/日を超えており、残存腎クリアランスも総溶質クリアランスに貢献しているようであれば、24時間蓄尿による尿量とクリアランスの測定を最低2ヶ月毎に実施すべきである。(B)

2.2 RKFのない患者(尿量イ100mL/日は無尿とする):
2.2.1 最低限満たすべき小分子溶質クリアランスは、PDのKt/Vとして、最低限1.7/週とすべきである。これは、透析導入時においては最初の月内に、その後は4ヶ月毎に最低1回は測定すべきである。(B)


ガイドライン3. 残存腎機能の保持

PDの適正透析に関する前向きのランダム化研究や種々の観察研究の結果は、RKFがあることがPD患者の生存率に大いに寄与していることを示している。

3.1 RKFを常に評価し、保持することは重要である。(A)

3.2 RKFのある患者で降圧薬を必要とする場合は、ACE阻害薬やARBを使用することが
望ましい。(A)

3.3 RKFのある患者で正常血圧である場合は、腎保護効果を目的としてACE阻害薬やARBを使用することを考慮する。(B)

3.4 CKD患者のRKFに与える影響因子(表4参照)は、PD患者においても共通であり、できる限り回避すべきである。(B)


ADMEX studyでは、対照群 (溶質除去量を増加させない群) と介入群 (処方により溶質除去量w-Ccrを60L/weekまで増加させた群) での死亡率に差は無く、腹膜での溶質除去量の増加のみでは生存率の改善は認められなかったことが報告された。
(R. Paniagua, D. Amato, et al. Effects of increased peritoneal clearances on mortality rates in peritoneal dialysis: ADMEX, a prospective, randomized, controlled trial. J Am Soc Nephrol 2002; 13: 1307 - 1320)。


ガイドライン4. 体液状態の維持

体液過剰状態は、慢性心不全(CHF)、左室肥大(LVH)、高血圧に関わってくる。よって、除水量、ドライウェイト、塩分摂取及びその他の体液量に関する臨床評価指標を常にモニ
ターすることが重要である。

4.1 各透析施設はPD患者の排液量、RKF、血圧を毎月モニターし評価すべきである。(B)

4.2 治療法によっては、細胞外水分量(ECW)や血液量を適正化することを考慮すべきであるが、それに限らず、塩分/水分の制限、RKFのある患者には利尿薬の使用、PDによるUFと塩分除去の適正化は重要である。(B)


体液過剰状態は循環動態に影響を及ぼし、生命予後に影響を与える。総Na+除去量・総除水量は生存率の予測因子であり、High transporterも死亡率が高いとの報告もある
(K. Ates, K. Keven, et al. Effect of fluid and sodium removal on mortality in peritoneal dialysis patients. Kidney Int., 2001; 60: 767 - 776,)。

本邦の腹膜透析患者においても離脱理由の55%は体液コントロール不良であった
(Y. Kawaguchi, et al, Searching for the reasons for drop-out from peritoneal dialysis: A nationwide survey in Japan. Perit Dial Int 2003; 23, suppl: 175 - 177)。

又、腹膜透析患者の体液過剰状態を改善することにより、栄養状態の改善もみられることが報告されている
(L. Cheng, et al. Strong association between volume status and nutritional status in peritoneal dialysis patients. Am J Kidney Dis 2005; 45: 891 - 902)。

ガイドライン5. 治療の質の改善に向けたプログラム

継続した品質改善(CQI)のプロセスは、CKDのステージ5を含む多くの教育の場でそのアウトカムを改善することが示されている。

5.1 在宅治療を教育する部門は、品質改善プログラムを立ち上げることにより、臨床のアウトカムを評価し、患者ケアの向上に主眼をおいたプログラムを実施できるようにする。(B)

5.2 品質改善プログラムには、PD患者のケアと教育に携わるすべての担当者が関与すべきである。つまり、医師、看護士、MSW、栄養士、等である。(B)

5.3 モニターすべき臨床評価指標は表5に示すとおりである。(B)

まとめると、
PDの適正透析は小分子溶質除去を基本に考えるべきである。しかし、小分子溶質除去のみに固執すべきではなく、患者の臨床症状、臨床検査値、患者QOL等と総合して判定すべきと考えられる。


V. わが国でのPDの適正透析に関するガイドライン策定の動き

本邦でも、日本透析医学会にてPDガイドラインの作成をする動きが起こりつつある。
日本透析医学会学術委員会「血液浄化の療法の機能・効率に関する小委員会」が中心となり2005年より作成が開始された。第51回日本透析医学総会スペシャルセッション(2006年6月横浜、日本透析医学会と日本腹膜透析研究会共催)での討議を経て、さらに日本腹膜透析研究会幹事の査読と意見を反映している。又、2006年の第12回日本腹膜透析研究会/国際腹膜透析シンポジウムにおいて「透析量−日本版DOQIガイドラインの必要性」というシンポジウムが組まれてガイドラインの素案が発表され、活発な討議が行われた。
この案では下記のような項目についての素案が示された。

  1. PD導入基準
  2. PD適正透析基準
  3. PD食事指導内容
  4. PD以外の治療法への変更条件

本邦では長期腹膜透析患者が多いことより、PD治療の他の治療への移行の基準についての素案があることが特徴として挙げられる。
このガイドライン(案)は先に述べたPD療法の基本事項を踏まえたものであり、そのため敢えて諸外国のガイドラインとは異なりエビデンスレベルの評価は避け、PD療法に携わる臨床医のオピニオンを意識的に取り入れている。
現在、日本透析医学会 ガイドライン委員会にてワーキンググループが組織され、作成にむけての活動中である。
また、これらのガイドラインの裏づけとなるデータ採取のために、日本透析医学会統計調査委員会にてもPDに関する調査項目が増やされつつある。
今後、これらの活動の成果として日本のPDガイドラインが作成され、これらが臨床の場で活用されることが期待される。

W. まとめ

Clinical practice guidelines and clinical practice recommendations 2006 Update:Peritoneal dialysis adequacy.は2000年版と比較して、簡潔に記されており、実用的である印象をうける。
guidelineにおいてグレードを臨床手法として強いエビデンスがあるAと臨床手法としてエビデンスがあるBにわけている。
また、guidelineに加えて、比較的弱いevidenceに裏づけされたものかopinionに裏づけされたものとしてRecommendationが加えられている。このrecommendationの多くは6.小児PDについて多く記載されており、小児PDのevidenceが少ないことが示唆される。
多くのguideline がopinionに基づいたものであった2000年版と比較して、より多くのevidenceのreviewをもとに作成されていることが理解できる。
今後、Clinical Practice Guidelines and Clinical Practice Recommendations 2006 Update:Peritoneal dialysis adequacy.のguidelineとrecommendationを総合的に判定して、日常診療に活用されるべきと考えられる。

【参考文献】
1) The EBPG expert group on peritoneal dialysis. European best practice guidelines for peritoneal dialysis. Nephrol Dial Transplant. 2005; 20(Suppl. 9): ix1 - ix37.
2) NKF-K/DOQI clinical practice guidelines for peritoneal dialysis adequacy: update 2000. Am J Kidney Dis. 2001; 37(1, Suppl. 1): S65 - S136.
3) Peritoneal dialysis adequacy work group. Clinical practice guidelines and clinical practice recommendations 2006 update. Am J Kidney Dis. 2006; 48(1, Suppl. 1): S91 - S175.



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