11月16日

冒頭、今回の会長であるThomas DuBoseは世界的に増加しつつあるCKD患者の抑止とそのケアに当学会としても積極的に参加する必要性を強調した。具体的には、1)第一線の医師(primary care physicians:PCPs)との連携を強め、情報の交換を促進し、early referralを実現する。 2)CKDを特別な疾患としてではなく全人口の18%には何らかのCKDの所見がみられることからpublic healthの範疇であると行政に認識させる。3)CKDの存在は心血管障害CVDの危険性を増幅させる病態であること。4)国際的に情報を交換し、その比較から医療政策を学ぶこと、例えば同様なCKDの頻度をもつノルウェーと米国の比較など。5)CVDの研究費の中にCKDに関連した研究費を増やすこと。6)CKDの治療戦略に高血圧、動脈硬化、糖尿病などの研究成果をリンクさせること。7)CKD治療につながる教育プログラムの拡充。8)何よりもASNそのものがCKD患者を減少させるために挑戦する姿勢を持つことが重要であると述べた。このメッセージはわが国において増加しつつあるCKD患者の対応についても具体的な示唆を与えるものであり、日本腎臓学会としても真摯に受け取るべき課題が具体的に示されてういる。
State-of-the-Art LectureはB Freemanが“Redox reactions in cell signaling and inflammation”と題して講演した。従来の細胞内の情報伝達はphosphorylationの時代からRedox reactionの連鎖の解明に移行していることが、炎症という病態を例に引き明快に解説した。今後の病態研究の方向付けという点でASNの特別講演としてふさわしいものであった。Clinical Nephrology Conference(CNC)は“Long term survival in peritoneal dialysis(PD) patients”が取り上げられた。演者はMF Flessner, RT Krediet, JM Burkart, R Mehrotraであったが新しい情報はなく、僅かに、kredietのAQPとUFFの関係、Flessnerのカテーテルに付着するbiofilmが腹膜機能の劣化につながる可能性を実験的に示した程度であった。EPS,HD +PD併用療法については全くといってよいほど触れられなかったことは、演者の勉強不足を露呈した感があった。本セッション4名の講演を総括するとLong-term survivalについて解決しなければならない問題として1)GDPの混入が如何に少ない透析液を作るか、この透析液の使用により如何に長期のPDが出来るか、2)chronic inflammationの克服、3)腹膜劣化に関与するgenetic predispositionの解明、4)catheter/biofilmの解決が実現できるかというものであった。本CNCの救いは約800人の聴衆で部屋が埋まり、床に直接座る人が出たほどであり、PDについての関心は世界的に衰えていないことが実証された。午後のCNCは“Effects of inflammation on kidney function before,during, and after dialysis”に出席した。透析患者の慢性炎症状態を克服することが長期生存、合併症阻止の鍵であること、具体的には長期使用に耐えるIL-1 receptor antagonistの開発、透析液中からCpG-oligonucleotide fragment(ODN)を如何に消去するかが問題であり、如何にultrapureな水処理を行っても、少しでもLPSが存在すると相乗的にimmune systemを刺激し、慢性炎症状態を引き起こすことがドイツのR Schindlerから発表された(rf;Nature Review 2006)。一般講演、実験的腹膜透析のセッションに出席したが、10題の講演のうち日本が5題を占め、香港、韓国、タイ、英国、ドイツがそれぞれ1題づつ発表した。
ASNでありながら、PD研究の最先端の地位を誇っていた米国からの発表が1題もないことは、PDの基礎研究分野での研究は停滞していることが示されている。講演の中でも、タイから発表された腹膜機能保護のためのPPAR-γagonistの演題は昨年ASNの中国からの発表、今年、香港で行われたISPDにおける韓国、長崎からの発表についで取り上げられた課題であり、すでに薬剤として市販されているものをもちいる事から、わが国においても早期の臨床使用(現在では透析患者における使用は健康保険で認められていない)の成績が渇望される。  
ポスターは腹膜透析46題であったが、中でも多発性嚢胞腎によるESRDに行った長期PDは、非糖尿病患者の予後と比較して相違がないことが英国から発表された。わが国においても至急臨床使用の成績を出すべき課題である。
Evening symposiumは盛大に行われ、“Bone and mineral metabolism in CKD; Medical crossfire”のセッションに出席した。題名は魅力的であったが内容はスポンサーに傾きすぎたきらいがあり、新しい情報は乏しかった。


11月17日

早朝行われたbreakfast symposiumは満員の状況であり、いつものことながら参加者の情熱には感心する。本日参加できたのはFluid dysregulation; Disturbance and Managementであり、現在の電解質における研究と臨床分野におけるopinion leaderであるR Shrier(Colorado)がレビューした。そこでは、現在SIADH、肝硬変、心不全において、体内に過剰蓄積した水のみを除去する薬物として最も期待されているADH antagonistが紹介された。現在すでにFDAにおいて本年承認されているものはConivaptan(V1a + V2受容体拮抗)であり、適応は慢性の低Na血症(SIADH)に限られているが、近い将来、V2選択的antagonistであるTolvaptan、Lixivaptanについても、治験成績が紹介された(Tolvaptan, a selective oral vasopressin V2-receptor antagonist, for hyponatremia: N Eng J Med2006: 355: 2099-2112)。肝硬変、心不全の新しい治療戦略として教科書が書きかえられる可能性があるpotent drugである。本剤の開発の発端はわが国の製薬企業の業績であるが、残念ながら未だ、承認は得られず、行政の怠慢がここでも作用している。先端的薬剤の臨床使用は慎重であることは言うまでもないが、限定した施設と、許可条件をつけても早く臨床の場に登場してほしいものである。臨床研究の大きな起爆剤となるであろう。Young Investigator AwardはドイツのThomas Benzingに蛋白尿発生の根源となるpodocyteを中心とした業績に対して授与された。State-of-the-Art LectureはJohns HopkinsのA Chakravartiが病態解明のための遺伝学的アプローチについて現在までの進歩と今後の指針について講演した。この面における発展は病態解明の強力な武器になる一方で、個人の将来の疾患が予告され、それに対してどの様にback-upしてゆくか、医学の進歩と倫理、実際の支援についての連携がどの様に展開されてゆくかが今後の課題である。
CNCは透析患者の突然死についての討論であったが、米国の統計では透析患者の死亡原因の32%が突然死であり、その殆どがcardiac deathであると紹介された。心筋の構造的、機能的異常に起因することは理解できても、突然死として扱われる原因は医師がよく患者を診ていない、患者への問診、診察の頻度と緻密さに差があるので予知できない状況も突然死の頻度の多さの原因ではないか。午後のCNCは“Perspective on clinical science to acute kidney injury”に出席した。内容は事象の解説であり、わずかにbiomakerとしてIL-18が使用できる可能性があることが印象に残った。しかし、この場で用いられたAcute Kidney Injury(AKI)という語句については翌日のCNCで詳細に説明がなされ、今後この語句がAcute Renal Failure (ARF)に代わって使用されるであろう。翌日に行われたCNC、“Acute Kidney Injury; New Paradigm”の内容をここで紹介する。
従来のAcute Renal Failure: ARFは僅かの腎機能の障害から、透析を必要とするほど障害が高度ものまで総括されて呼ばれており、病態の定義としては漠然としたものであった。2005年9月に、AmsterdamにおいてAcute Kidney Injury Network(AKIN)が主催し、summit consensus meetingが行われ、本会議の勧告として、定義、診断基準、ステージ分類が提起された。
Acute Kidney Injury:AKIの定義:AKIとは腎臓の機能的、または構造的異常、または腎障害を示唆するマーカーが血中、尿、組織、または画像診断において3ヶ月以内に出現した場合を言う。
診断基準:急激(48時間以内)な腎機能の低下であり、便宜的に次のように規定する。すなわち血清クレアチニン濃度が0.3mg/dLか、それ以上の上昇を見たとき(25mmol/Lかそれ以上の上昇)または50% 以上の増加をみたとき、または尿量の減少(乏尿の出現;0.5ml/kg/hrが6時間にわたるとき)が認められた場合。クレアチニン濃度について絶対値と増加率で示した理由は、年齢、性差、BMIなどにより基礎値が変動するからである。いずれにしても経過内に2回の測定を必要とする。尿量については、閉塞性尿路障害による場合には診断基準から除外すること、以前から潜在していた腎障害がある場合、適切な体液是正により回復した場合など、その状況を勘案して診断することは付記されている。


Luncheon symposiumは“cardiovascular disease and the morbidity and mortality in ESRD”に出席した。PTH/Ca/P/Vit Dがいかに重要であるかを示すものであった。 Vit Dの使用量とcoronary vasculisationは正相関することが明らかにされたが、一方DOQIガイドラインではPは6mg/dL以上では使用禁止としていることで、矛盾がある成績であった。今後はさらに詳細な分析が必要であり、講演者はVit Dマフィアのopinion leader達であるので、miss leadに留意すべきであろう。また、血管石灰化に関してVit D2/3に差のあることがここでも示されていた。
今後注目する課題である。
午後のCNC:Non-traditional risk factor-cardiovascular disease(CVD) in chronic kidney disease(CKD)が行われた。最近流行のCa, Pi, PTH, Vit Dの関連は、われわれ日本人にとって新しいものでなく、血管石灰化の病態発症に強く関連していることは明らかである。Luncheon symposiumでも述べられていたが、活性型vit D analogの中で、−D2 baseは−D3 baseよりも血管石灰化に対する寄与は少ないとする成績はわが国においても検証すべきであるが残念ながら前者のanalogはわが国では市販されていない。EPOによるendothelial Progenitor Cell(EPC)の賦活による血管新生の期待、各cytokine networkのdysregulationにつての病態進展の関与など内容は豊富であった。

11月18日

早朝行われたmorning symposium: Radio Contrast Nephropathy(RCN)は聞き応えがあった。すなわちAKIの発症は腎髄質循環不全による低酸素状態が直接の原因ではなく、病態に対応したPGE, NOの産生不足が直接の病態発症の機序ではないかとの実験結果が示された。臨床的観点から、造影剤は等張性が腎障害惹起という点では最も安全であることがmeta-analysisの結果から示され、同様に発症予防と治療には生理食塩液が最も有効であり、furosemide, mannitolの有用性は否定された。N-acetylcysteineについてはその有用性が明らかにされていると報告された(N Engl J Med: 2006:354;2773−2782.N-acetylcysteine and contrast-induced nephropathy in primary angioplasty).
午前のセッションでは移植免疫についての臨床家で活発な研究活動を展開しているBostonのTerry StromがHomer W Smith Awardを授与され、受賞講演をおこなった。移植免疫の研究成果と各種の免疫担体細胞に対する特異的抗体の開発はやがて拒絶反応の完全な克服につながり、今日、graftに見られる拒絶反応にともなう細胞浸潤所見はやがて見られなくなる可能性を現実のものとして期待できるところまで来ているという結びの言葉は印象的であった。State-of -the-Art LectureはRudolph Jaenischがstem cell research の基礎から臨床応用、すなわちorgan(tissue) specific repairの可能性まで触れた。倫理的問題は全く触れず、ひたすら生物科学的観点からの期待を力説していた。
CNCはhome dialysisに出席した。home hemodialysisはQuotidian(daily) dialysisを可能とし、daily shortまたはnocturnal dialysisの有用性が米国とカナダから紹介された。現在の透析合併症、すなわち、慢性炎症状態(CRP)を改善、心血管系障害を減じ、2価イオン異常を是正し、骨塩量を改善し、腫瘤性異所性石灰化を消失させ、認知力の低下や不眠等の中枢神経障害を改善していることが報告された。ここまでは、従来の単発的な発表の総括であり納得できるものであったが、驚くべきことにendothelial progenitor cell(EPC)の数を増加させ機能を改善させること、すなわち、血管内皮細胞の障害による病態の改善までも起こっているという報告は今後のESRD治療において移植に次ぐ理想的なoptionであることを明確に示したものである。わが国において何故home dialysisが出来ないのか?克服すべき難関は何であるのか?その突破口は何か?このセッションは日本が、現在世界で最も良い透析成績を挙げていることに満足し、何らの改善、変革を求めない現状にたいする警鐘のように受け取った。
午後はCPC出席、primary amyloidosisの症例であり、新しい知見は少なかった。Free communication のPDのセッションでは8題が口演でとりあげられた。残念ながら日本からの演題はなかった。米国から新規透析導入患者のPD による導入は7.1% であり、60%がなんらかのcomorbidityを有し、30-50代にPD 導入が多いとのregistryが報告された。Gambroから試験的に提供されている低Na透析液のヨーロッパ3国の多施設治験結果がS.Daviesにより報告された。有意に、安全に食塩除去が行われ、今後早期の上市が待たれる。


Low GDP solution使用の利点としてBaroreflex改善が見られたこと。Protein bind soluteの除去は残腎機能により規定されてしまうこと、腹膜損傷のBiomarker としてRIP2 expressionが応用できる可能性があること、mature dendritic cellからのIL 12の分泌はgood marker であり、このサイトカインの分泌不足は腹膜損傷を裏付けていることが報告された。
PDに関するposterは55題あり、腹膜炎と腹膜機能の問題にかんして多数の研究があり、臨床よりも腹膜を材料とした基礎研究が先行しているように感じられた。今後は臨床研究に多くのgrantを賦与すべきであろう。

11月19日
最終日は日曜の午前のみのプログラムであり、会場は“強兵どもの夢の跡”の感じであったが印象深いeventが行われた。日本の腎臓分野においても教育者としてよく知られており、水・電解質の教科書の執筆者としても、また、ASN主催のNephrology Review Course, Board Review Courseの担当者であるRobert Narinsが、今回をもってその任を引退することになった。今年から彼の腎臓学における教育活動を記念して“Robert G. Narisns Award”が制定されたが、その第一回目の受賞者に彼自らが選ばれたことは、実際に彼の教育に対する世界的貢献度から鑑みて、最も相応しい受賞者であると誰もが賛同するであろう。わが国の腎臓専門医のなかにも彼の主催するコースに参加した方も少なくないであろう(著者自身も2005にSan Franciscoで行われた7日間のBoard Review Courseに出席したこと、ASNの年次会議の前2日間にわたって行われるコースに参加したこと、その時に受けた情熱的な理解し易い講義法、教え方の巧みさは忘れることが出来ない。また、受講証書とともに、彼の直筆で遠方からの参加を感謝する旨のメッセージが書き添えてあったことも彼の教育者としての資質を如実に表すものであろう)。引退に際し、奥様とともに手を取り合い会場を後にするRobert Narins先生に参加者は総立ちで拍手をして送り出した光景は極めて暖かいものであった。彼の教育に触れたわが国の腎臓医を代表して感謝の拍手を送らせて頂いたことを付け加えたい。
特別講演はnanopolymer、nanofiberを単体とした免疫制御、がん治療にかんする講演がWM Saltzmanにより行われた、担体を合成nanocompoundとして標的細胞、組織に到達させる手法が身近に来ていることを実感させられた。CNCは脂質代謝に関与するReninの役割がRenin knockout mouseを用いて明らかにされたこと、AngiotensinIIにより大動脈瘤形成に男性ホルモンが抑制的に働いていることが明らかにされるなど、RAS系の血圧調節以外の新しい病態形成作用についての講演は興味深いものであった。

総 括
ASNは落ち目であるとの評価は当たらない。米国からの研究成果に終わらず、世界的な視野から講演・話題を選択し、CNC、free communicationにおいても新しい課題を取り上げる姿勢には共感できる。以前は鼻についた“アメリカが教えてやる”という姿勢から“世界から学ぼう”という姿勢に変わってきていることは間違えようのないことである。なお、2007年はSan Francisco での開催であり、日本から、特に若い研究者、臨床医の多くが参加されることを期待している。



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