GUIDELINE ON TARGETS FOR SOLUTE AND FLUID REMOVAL IN ADULT PATIENTS ON CHRONIC PERITONEAL DIALYSIS.

Peritoneal Dialysis International 2006; 26(5): 520 - 522. を、出版社であるMultimed. Inc. の許可を得て翻訳したものである。(翻訳責任者:川口 良人)
   


ここ10年間において、透析の分野でも最適な患者管理に向けて種々のコンセンサスやエビデンスに基づいたガイドラインが出されてきた。多くがその国、その地域の実情に合わせて提唱されたものであり、直ちにそのすべてに同意することはできない。それは、世界各地で実践されている透析治療が微妙に異なっているためである。
国際腹膜透析学会(International Society of Peritoneal Dialysis: ISPD)では、アジア、オーストラリア、ヨーロッパ、北アメリカから、それぞれの地域を代表するPDドクターからなるワーキンググループを召集し、PDの適正透析に関する一連の勧告を策定した。ここに示すコメントや勧告が、PDを管理している世界中の方々にとって興味深くかつ臨床応用できるものであること、また、内容が正確かつ簡潔明瞭であることを願ってやまない。
なお、この勧告はISPDの基準に沿ったものであり、ISPD内に設置されている教育に関する委員会の承認を得ていることを付け加える。

 


パートA:専門家のオピニオンと2005年9月までの関連文献から得られた知見の要約
  1. 前向きの観察研究において、残存腎機能(腎クリアランス、または尿量)は予後予測因子であり、一方、腹膜クリアランスはそうではないことが明らかにされている。このことから、残存腎機能は、腹膜クリアランスと腎クリアランスの和である総クリアランスと生命予後との関連をみる際でも、その重要な決定要因となっている (1-4)。
  2. 腎クリアランスと腹膜クリアランスが患者生存に与える影響は異なっている (4, 5)。よって、単純に両者を足し合わせて総クリアランスを出すことは科学的根拠に乏しい。しかしながら、腎クリアランスと腹膜クリアランスとがそれぞれ果たしている役割を評価するための適切な指標が現時点でないために、便宜的に両者の和で示す総クリアランスで評価せざるを得ない。
  3. 前向きでのランダム化介入研究では、総Kt/V > 1.7 /week、あるいは総Ccr 50 L/week/1.73m2のCAPD患者を、総Kt/V > 2.0、あるいは総Ccr 60 L/week/1.73m2に上げた場合での臨床的メリットを示すエビデンスは得られていない (6, 7)。
  4. 介入研究の結果により、総Kt/V < 1.7 /weekは以下の2点で示すような予後低下に対し主要なあるいは副次的な影響因子として関与していることが理解されている。
    (a)エリスロポエチン投与を増やす必要がある臨床症状の悪化がみられる (7)。
    (b)前向きでの非ランダム化研究において、患者生存率、治療継続率ともに低下がみられる (8)。
  5. 生命予後の観点から目標クリアランスの最低値を探索した前向きでのランダム化研究は今のところない。
  6. 無尿PD患者を対象とした後ろ向き研究において、腹膜Kt/V < 1.67 /weekの患者では、腹膜Kt/V 1.67-1.87 /weekの患者に比し生命予後が悪いことが示されている (9)。また別の後ろ向き研究において、対象患者数が若干少ないものの、腹膜Kt/V > 1.85 /weekである無尿のAPD患者で、統計的有意差はないが死亡リスクの低下傾向がみられている (10)。NECOSADの研究グループが行った無尿患者を対象とした前向きでの観察研究は、腹膜Kt/V < 1.5 /week、腹膜Ccr < 40 L/week/1.73m2の患者では死亡率が高かったことを示している (11)。
  7. 前向きでの観察研究であるEAPOSの結果から、無尿APD患者において除水量が死亡の予測因子であることが示された (12)。そこでは、ベースラインの除水量 < 750 mL/dayの患者で予後が悪く、経時的にみた場合の平均除水量は予後に関係しないことが示されている。これとは対照的に、NECOSADでは、無尿患者の除水量を連続変数として時系列で分析した結果、生存に対する影響因子として有意であることが示されている (11)。こうした状況から、除水量に関する数値目標を設定することは困難である。
  8. CAPD患者においては通常、Kt/VとCcrとで強い相関がみられるが、APD患者の場合は一概にそうとはいえない。それは、透析処方と腹膜透過性の影響を受けるためである (13)。
  9. 小分子溶質クリアランスと中分子溶質クリアランスとの間にはかなりの乖離がみられる。これは、小分子の場合には透析液交換の回数と貯留液量に依存するのに対し、中分子では貯留時間に依存するためである (14)。
  10. 小分子溶質クリアランスは腎不全状態を表す1つの指標に過ぎない。すなわち、生体腎は体液管理、電解質および酸塩基平衡、代謝、血圧管理といった種々の役割を果たしており、それは小分子溶質クリアランスでは十分に評価できない。
  11. 4年以上の予後を評価した、長期での前向きランダム化介入研究はない。
  12. 糖尿病患者と非糖尿病患者において目標クリアランスを変えるべきか、同様に体格の異なる患者で目標クリアランスを変えるべきかといったエビデンスはない。
  13. ここで引用されているKt/Vの予後への影響を評価した研究では、すべてVの推定式として(実体重を用いた)Watsonの式を用いている。PD患者のVの推定式としてその他の式を用いるという研究は行われていない。
パートB:パートAに基づく勧告
  1. 適正透析は臨床的な見地から考えるべきであり、溶質および水分除去が目標値を達成していることだけで判断してはならない。臨床評価の指標としては、臨床症状、検査値、腹膜および腎クリアランス、体液状態、食欲および栄養状態、活動量、ヘモグロビン濃度、エリスロポエチンへの反応性、電解質および酸塩基平衡、カルシウム・リン代謝、血圧管理が含まれる(エビデンスレベル C)。
  2. 適正透析は、小分子溶質除去や除水を目標とすること以外にも考慮すべき点があることから、当委員会ではガイドラインの名称を「PDの適正透析のガイドライン」ではなく「成人PD患者における溶質ならびに水分除去の目標値に関するガイドライン」とした。
  3. 小分子溶質除去については、総(腎+腹膜)Kt/Vはいかなる場合も1.7を下回ってはいけない(エビデンスレベル A)。このことは、無尿患者においても腹膜Kt/V > 1.7とすべきことを表している。残存腎機能がある場合には、実際のところ腎と腹膜のクリアランスの合計で評価することになるが、前述の通り、腎と腹膜のクリアランスは同等ではない(オピニオン)。このレベルを超える溶質除去があるからといって「適正透析」であると判断してはならない。それはPET等で評価した腹膜透過性に基づいてこの目標値を満たすような処方が組まれていることがあるためである。
  4. CAPDでは、Ccrの目標値を別途設定する必要はない。しかしAPDでは、尿素とクレアチニンそれぞれのクリアランスにたびたび乖離がみられることから、Ccr 45 L/week/1.73m2を目標値として別途、設定することが推奨される(エビデンスレベル C)。
  5. 小分子溶質クリアランスの目標値を満たす上で残存腎機能に強く依存している患者では、定期的に(できれば1−2ヶ月毎に、そうでなければ4−6ヶ月を超えない範囲で) 腎機能を測定すべきである。その結果に基づき、適宜PD処方を調整する(エビデンスレベル C)。残存腎機能の低下を示唆するような尿量の低下や血清生化学値の変化が見られたら、すぐに腎機能測定を行わなければならない。
  6. PD処方は、間欠的な治療より24時間連続した治療設定が望ましい(エビデンスレベル B)。
  7. 体液状態を維持するためには、尿量と除水量の両方に留意すべきである。高濃度ブドウ糖透析液を使用しても十分な除水が得られない場合は、除水不全の可能性を考慮すべきである。これについては、除水不全の評価と管理に関するISPDの勧告に基づきPETによる精査が必要とされる (15)(エビデンスレベル B)。
  8. 患者に透析不足の徴候を認めた場合、たとえKt/Vが目標値を満たしていたとしても透析量を増やすよう試みるべきである(エビデンスレベル C)。
  9. 目標クリアランスを達成できない場合に、使用透析液量を増やす(交換回数を増やす、あるいは1回注液量を増やす)、または血液透析に移行することは、そのメリットと同時に、考えられる不利な点、QOLへの影響、医療費等のデメリットを合わせて考える必要がある(エビデンスレベル C)。
《REFERENCES》
  1. Diaz-Buxo JA, Lowrie EG, Lew NL, Zhang SM, Zhu X, Lazarus JM. Associates of mortality among peritoneal dialysis patients with special reference to peritoneal transport rates and solute clearance. Am J Kidney Dis 1999; 33:
    (a)523-34.
  2. Szeto CC, Wong TYH, Leung CB, Wang AYM, Law MC, Lui SF, et al. Importance of dialysis adequacy in mortality and morbidity of Chinese patients. Kidney Int 2000; 58:400-7.
  3. Bargman JM, Thorpe KE, Churchill DN. Relative contribution of residual renal function and peritoneal clearance to adequacy of dialysis: a reanalysis of the CANUSA study. J Am Soc Nephrol 2001; 12:2158-62.
  4. Termorshuizen F, Korevaar JC, Dekker FW, van Manen JG, Boeschoten EW, Krediet RT. The relative importance of residual renal function compared with peritoneal clearance for patient survival and quality of life: an analysis of the Netherlands Cooperative Study on the Adequacy of Dialysis (NECOSAD)-2. Am J Kidney Dis 2003; 41: 1293-302.
  5. Szeto CC, Wong TYH, Chow KM, Leung CB, Law MC, Li PKT. Independent effects of renal and peritoneal clearances on the mortality of peritoneal dialysis patients. Perit Dial Int 2004; 24:58-64.
  6. Paniagua R, Amato D, Vonesh E, Correa-Rotter R, Ramos A, Moran J, et al. Effects of increased peritoneal clearances on mortality rates in peritoneal dialysis: ADEMEX, a prospective, randomized, controlled trial. J Am Soc Nephrol 2002; 13:1307-20.
  7. Lo WK, Ho YW, Li CS, Chan TM, Wong KS, Yu AWY, et al. Effect of Kt/V on survival and clinical outcome in CAPD patients in a randomized prospective study. Kidney Int 2003; 64:649-56.
  8. Yao Q, Lin AW, Qian JQ, Ren Q, Zhang DY, Ying H, et al. The adequacy of peritoneal dialysis in a single Chinese center. Hong Kong J Nephrol 2001; 3(2):79-83.
  9. Lo WK, Lui SL, Chan TM, Li K, Lam MF, Tse KC, et al. Minimal and optimal peritoneal Kt/V targets - results of an anuric peritoneal dialysis patients survival analysis. Kidney Int 2005; 67:2032-8.
  10. Bhaskaran S, Schaubel DE, Jassal SV, Thodis E, Singhal MK, Bargman JM, et al. The effect of small solute clearances on survival of anuric peritoneal dialysis patients. Perit Dial Int 2000; 20:181-7.
  11. Jansen MAM, Termorshuizen F, Korevaar JC, Dekker FW, Boeschoten E, Krediet RT. Predictors of survival in anuric peritoneal dialysis patients. Kidney Int 2005; 68: 1199-205.
  12. Brown EA, Davies SJ, Rutherford P, Meeus F, Borras M, Riegel W, et al. Survival of functionally anuric patients on automated peritoneal dialysis: the European APD Outcome Study. J Am Soc Nephrol 2003; 14:2948-57.
  13. Nolph KD, Twardowski ZJ, Keshaviah PR. Weekly clearances of urea and creatinine on CAPD and NIPD. Perit Dial Int 1992; 12:298-303.
  14. Kim DJ, Do JH, Huh WS, Kim YG, Oh HY. Dissociation between clearances of small and middle molecules in incremental peritoneal dialysis. Perit Dial Int 2001; 21:462-6.
  15. Mujais S, Nolph K, Gokal R, Blake P, Burkart J, Coles G, et al. Evaluation and management of ultrafiltration problems in peritoneal dialysis. Perit Dial Int 2000; 20(Suppl 4):S5-21.



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