透析療法のメリットを最大限に引き出すためには、慢性腎臓病(CKD)ステージ5できちんと腎機能を評価し計画的に導入していくことが重要であり、そのためには十分な情報提供による療法選択や患者教育が不可欠といえる。
 これらを実践するためには、患者の不安やニーズ、生活背景などを踏まえたインフォームドコンセントが必要となり、そのためには医師や看護師を含めたチーム医療による“患者視点”のサポートが重要となる。特に、患者との接点の多い看護師の役割は、そのコミュニケーションにおいて重要となる。
 今回、日本透析医学会より「腹膜透析ガイドライン2009」で提唱された第一章「導入」を中心に、保存期から患者に関わり、腹膜透析を実施している看護師の方々に、計画導入推進のためのチーム医療の構築・展開、それによって得られる成果などについて討議いただいた。


今後の腎臓・透析医療は、地域を含めた連携による包括的なケアが重要

宗像医師会病院 副院長 腎センター部長  保利 敬

保利 敬 氏
(宗像医師会病院)
PD49 例、HD150 例
(2009 年7 月末現在)
 わが国の慢性腎不全治療における腹膜透析(PD)の軌跡を振り返ると、1983 年に薬価収載、翌84 年に保険適用されてから患者数、施設数とも順調に増えてきましたが、90 年代後半からは停滞しています。その後、在宅医療の推進に向けPD の患者数を増やそうとする動きがあるものの、実質的増加は見られません。この足踏み状態から脱却するためには、透析導入に際して従来の単なる「療法選択」から、治療法の特徴を生かしメリットを最大化するための「包括的腎代替療法」へのパラダイムシフトが求められます(図1)。特にPD への導入は、腎機能が残っている時期に計画的に導入することにより、残っている腎機能の保護とその後の合併症を回避することで、生命予後に重要であるとする知見が得られており、PD ガイドラインでも、「現在の腹膜透析の基本的な位置づけは、慢性腎臓病(CKD)ステージ5 の患者に対する包括的腎代替療法の初期治療である」と明示されました。
 これを受け、今後は新しいパラダイムを理解したスタッフが適切な患者教育にあたることが求められます。ただし、慢性疾患においては、患者の日常生活や社会的背景を踏まえた治療が求められますが、これらの情報は医療従事者の方で圧倒的に不足しています。慢性疾患治療を推進するためには、十分な医療者と患者の双方向コミュニケーションをとる必要があり、そこでの看護師の役割が非常に重要となります。慢性腎臓病、慢性腎不全における看護師の役割を十分に認識し、PD 治療の普及に大きく貢献していくことが望まれます。

図1 慢性腎不全治療に対する考え方の移りかわり

患者の身近な存在である看護師を中心としたチーム医療の重要性

聖路加国際病院 腎センター ナースマネージャー  加曽利 良子

加曽利 良子 氏
(聖路加国際病院)
PD27 例、HD140 例
(2009 年7 月末現在)
 PD 導入にあたっては、病期に合わせた十分な情報提供と導入前患者教育を医師、看護師、栄養士、医療ソーシャルワーカーなどを含めた多職種協働アプローチにより行うことが大切です(図2)。
 チームの一員としてPD に携わる看護師には、①PD が当たり前の治療として情報提供される環境づくり、②十分な患者教育の提供、③計画導入を実現するための療法選択のサポート、といった大きく3 つの役割が期待されます。
PD が当たり前の治療として情報提供される環境づくり
 患者にとってより身近な存在である看護師がインフォームド・コンセント(IC)に積極的に関わるとともに、療法選択外来の設置や教育入院パスの作成に力を注ぎ、PD が当たり前の治療として情報提供される環境を整備していく必要があります。
十分な患者教育の提供
 患者に対して病気と治療について適切な情報を伝えることにより、患者が自分の病気を知り、慢性腎臓病、腎不全治療に関する受容度も上がります。こうして、治療への積極的な参加を促すことで、病状悪化の抑制とQOL の維持につながります。
計画導入を実現するための療法選択のサポート
 透析への抵抗感が少なくなり、透析が始まったときの生活も具体的にイメージできることにより、透析は元気に楽しく過ごすための治療として前向きにとらえてもらえることが期待されます。
 今後は、チームとしての関わりについて、患者、医療者さらに医療経済における客観的な評価・分析を行っていく必要があると考えます。
図2 チーム医療で提供するサービスと構成メンバー
―各施設におけるCKD 患者への情報提供、療法選択支援の取り組み―
腎臓病専門看護師(CNN)を中心に保存期からの患者管理と情報提供をサポート

松本 千恵美 氏
(医療法人仁友会
北彩都病院)
PD64 例、HD450 例
(2009 年7 月末現在)

 当院ではCKD 患者管理システムを独自開発し、保存期から透析期までの一元管理を目指しています。CKD と診断された患者全員を対象に、血清クレアチニン(Cr)値を用いて障害者手帳の等級に合わせた段階的なスクリーニングを行っています。今後は推定糸球体濾過量(eGFR)を用いCKD 病期ステージ分類に合わせたスクリーニングに変更する予定です。
 また、腎臓病専門看護師(CNN:Certified Nephrology Nurse)という院内認定資格を設置・養成していることも当院の特徴の1 つです。CNN は透析室、外来、病棟の中から兼任で現在11 名おり、腎不全教室の開催、CKD 患者との個別面談、患者ニーズに応じた他職種のコーディネート、データベース管理など保存期患者の指導・教育・サポートにあたっています(表1)。
 療法選択のための情報提供とIC については、2007 年からPD 部門にPD 専任看護師を配置し、療法選択のための個別面談で血液透析(HD)、PD、移植の説明を行っています。現在、PD 専任看護師と兼任看護師の2 名がスタッフマニュアルに沿って療法選択の説明を行っています。現在
までに21 名の療法選択期の患者に介入し、9 名がPDを選択するという実績が得られています。
 これらの活動を通して、より早期から患者情報を把握し情報提供することが可能となったことで、緊急導入が減り、患者の不安も軽減できるという良い成果につながりました。またCNNを中心に専門多職種がCKD 患者に複数回関わるようになり、より均質な情報提供が可能となりました。
表1 北彩都病院における腎臓病専門看護師(CNN)の活動

充実した療法支援体制の構築に向けた「DOC」の立ち上げ


石川 弘子 氏
(取手協同病院)
PD39 例、HD120 例
(2009 年7 月末現在)

 当院ではCKD 治療歴のない紹介患者も多く、年間約100例の透析導入がある中で、約半数が緊急導入です。したがって透析導入までの期間が短い患者も多く、情報提供や療法選択のための時間が十分ではないという課題がありました。この状況下で、いかに腎センター看護師が関わるべきかを検討し、腎臓内科部長、腎センター師長の協力のもとで2009 年4 月よりDOC(Dialysis Orientation Coordinator)を設置し、保存期外来患者、入院患者への情報提供を強化し始めたところです(図3)。実際の役割は、個別面談による患者情報の収集と十分な情報提供を通して、療法選択の支援を行うことです。
 現在では病棟からのIC 面談アポが入るようになり、まだ少ないですが外来主治医からのIC 面談依頼が入るようになってきました。面談は1 回あたり1 時間以上かけ、生活全般や保存期の経過、透析受容状況等の情報を収集し、患者の状態に応じた適切な情報提供に努めています。また希望者は複数回の面談も可能です。
 このような取り組みを始めて約5 ヵ月の活動の結果、療法選択支援から透析導入までの時間があまり取れなかった患者はHD を選択する傾向があり、じっくり療法選択を行う時間があった患者、つまり計画導入ができている患者についてはPD を選択する割合が高くなりました。
 今後は、療法選択外来の決まった時間枠を設けて、より早期に介入を開始し、複数回の面談による段階的な支援も行っていきたいと考えています。さらに、チーム医療における看護師の役割を意識し、医師、病棟スタッフと情報の共有化を図りながら、療法選択支援体制の構築を目指していきます。
図3 取手協同病院における療法選択支援体制

患者の主体性を尊重するICを実践


田邉 厚子 氏
(埼玉医科大学
総合医療センター)
PD48 例、HD20 例
(2009 年7 月末現在)

 当センターでは、2006 年に「腎不全療法外来」を開設し、看護師が中心となってCKD ステージ4、5 前後で透析療法が必要となる患者とその家族を対象に、治療法について疑問や不安を解消し、患者自ら治療法を選択できるよう支援を行っています(図4)。この外来は月〜金の午前11 時と午後3 時に各1 時間2 コマを開設しています。希望者は複数回の面談が可能です。担当看護師
は腎・高血圧内科の医師の診察後、個室で腎臓病教室のテキスト等を用いて説明と情報収集を行います。また、担当看護師の説明内容の統一を図るため、外来専用マニュアルを使用してい
ます。担当看護師は臨床経験5 年以上で学生指導の経験者を条件としており、現在、4 名の兼務看護師が日替わりで担当しています。
 面談で特に注意していることは、日常生活がイメージできるような情報提供と、患者が今後どうしたいのかについて傾聴を中心とした関わりをもつことで、患者が希望する透析療法が実施できる
よう支援をしています。これは画一的な関わりでは決してうまくいきません。患者の重症度や精神状態に合わせて説明を行う必要があります。最近の3年間では135 名が受診し、PD 選択患者は34名、HD は79 名、未定者22 名という状況であり、やはり十分な情報提供によりPD を選択する患者が増しています。
 今後は、患者の臨床的重症度と精神的な受け入れ状態などを考慮した複数の指導コースを考えています。また、治療選択におけるサイコネフロロジーも重要な要素の1 つと考え、精神科の医師の協力を得ながら進めることもあります。同時に、看護師に対しても患者の精神面のサポートから関われるような教育プログラムや研修等への参加も促し、スッフ全員が関われるよう推進していきたいと考えています。
図4 埼玉医科大学総合医療センターにおける腎不全療法外来の目的と役割

CKD外来とPD外来が連携し、療法選択期患者に継続した関わりを持つ


中島 由賀 氏
(聖路加国際病院)
PD27 例、HD140 例
(2009 年7 月末現在)

 当院では、CKD 外来「腎臓病クリニック」において、すべてのCKD ステージの患者を対象に介入を行っています。特徴として医師の診療だけでなく、CKDナースが個室を持ち、個別指導を行っています。また、医師、薬剤師、看護師、栄養士、医療ソーシャルワーカー等の専門職種が連携をとって「そらまめ塾」による集団指導を行っています。
 CKD ステージ4、5 の患者には、「腎代替療法説明」という名称でCKD ナースの個別指導の一項目として実施しています。この説明はシステム化しており、CKD ナースとPD ナースが連携をとり看護介入をしています。内容は、①腎代替療法を理解し比較検討する、② HD・PD を見学し正しいイメージをもつ、③透析療法決定前後の気持ちを再確認する、以上3 段階に分けてそれぞれ数名いるCKD ナース、PD ナースの誰が担当しても同等の療法選択に向けた説明が行えるようにしています(表2)。
 PD 見学については、CKD ナースが日程調整をしてPDナースに直接コンサルテーションをします。PD ナースは実際のPD 関連製品を見せてPD 導入後の生活がイメージできるよう具体的な説明をします。同時に、PD 導入にあたり必要なサポートを把握します。どの段階でも面接(説明や見学)後はアンケートを取り、理解度や患者の反応等をナース間で共有して、以降の患者支援に役立てるという流れです。
 患者が透析を自分の事として考え、療法を選択するためには継続した関わりが大切で、CKD 外来とPD 外来は連携を取り合って療法選択を支援しています。
表2 聖路加国際病院における「腎代替療法説明」システム

看護単位一元化によるCKD看護管理に大きな手応え


平松 佐紀子 氏
(杏林大学医学
部付属病院)
PD27 例、HD50 例
(2009 年7 月末現在)

 当院では、看護単位一元化により、透析室をはじめ、腎臓内科外来や病棟、PD 外来、腎臓教室におけるトータルの看護管理が実現しています。このシステムを導入した2003 年に腎臓内科医師の情報提供サポートとして「個別腎臓教室」を開始しました。2004 年には、より効率的な指導を行うため「集団腎臓教室」を開始し、2005 年からはCKD 啓発活動の一環として「市民公開講座」を開催しています。取り組み始めて約6 年間で、1400 名以上のCKD患者を補足することができました(表3)。
 個別指導にあたっては、ステップ・バイ・ステップ法、セルフモニタリング法など行動変容の技法を使いながら自己効力感を高められる関わりを心がけています。また、指導の流れとポイントをまとめた指導マニュアルを作成する等、看護師教育にも力を入れています。指導後は“ 逸話記録用
紙” に患者さんの生の声を必ず記録に残し、医師にフィードバックしています。
 これらの取り組みの結果、2005 年の新規導入患者38 名が2008 年には79 名にまで増加しました。同時に東京西部・三多摩地区の中核医療センターとしての宿命ともいえる透析緊急導入52.3%を36.6%に減少させることができ、計画導入の患者が増えました。また、腎臓教室に参加している患者は非参加者41.6%に比べて29.1%と緊急導入率が低いという結果も得られており、計画導入に向けた活動の手応えを実感しています。
表3 杏林大学医学部附属病院の慢性腎臓病への取り組み

CKD患者看護の過程の1つに療法説明がある


中村 雅美 氏
(財団法人田附興風会
北野病院)
PD20 例、HD85 例
(2009 年7 月末現在)

 当院では、外来時間で十分に療法説明できない医師をサポートするため、2005 年に血液浄化センター看護師による「療法説明外来」をスタートさせました。その後、「導入間近の患者を待つばかりでなく、もっと早期のCKD 患者に関われないか」という思いが実を結び、2008 年にはCKD 全ステージを対象とした「腎臓病看護師外来」に昇格しました。
 現在では、腎臓内科外来はもちろん、地域からの紹介患者、教育入院患者などを一手に引き受けています(図5)。受診の是非は医師の判断に任されていますが、再診予約は看護師が行うので継続的に関わることができます。なお、CKD 患者数が多く定期スクリーニングは不可能な状態ですが、導入患者の大半が早い時期から同外来を受診できるよう医師との連携を取っています。
 今後は、病棟看護師がCKD の入院患者へ介入できるように連携を取っていくことが課題です。また、より早期から関わることで、血清Cr 値だけでなくQOL(quality of life)や自己管理へのモチベーションなど様々なアウトカムがどのように変化するのかを明確にしていきたいと思います。そして、「CKD 看護過程の一時期に療法説明がある」という考えのもと、患者が慢性疾患と向きあって生活してもらえるようなCKD 看護を実践していきたいと考えます。
図5 北野病院における腎臓病看護師外来の位置づけ

病棟看護師を中心に療法選択説明システムを構築


大室 由起 氏
(高砂市民病院)
PD24 例、HD70 〜 80 例
(2009 年7 月末現在)
 当院では、医師不足の折、医師一人当たりの担当患者数が増加し、外来診察時の情報提供への時間がなかなか確保できない状況でした。そこで病棟看護師による、教育入院を中心とした「療法選択説明システム」を立ち上げました(図6)。原則として血清Cr 値 5mg/dL以上(糖尿病患者の場合は3 mg/dL 以上)の患者に対して、2 泊3 日の療法選択パス入院の時か、または外来受診時に病棟看護師2 名が説明を行っています。
 患者のスクリーニングは、検査科によるリストアップに基づいて行っており、リストをもとに主治医と説明時期などについて相談し、介入するという流れです。また、外来担当医の判断により適宜説明依頼があります。面談時は患者の病気や透析に対する思いを知り、患者の状況に合わせ、時間・回数に制限なく行っています。これからは、チームの看護師全員が同じ知識のもとで療法選択の説明ができるようスタッフ教育に力を注いでいきたいと思います。
 療法選択説明後は、一般内科外来に戻りますが、マンパワーも時間も不足しているため、外来での継続的な指導が十分に行えず、必要に応じて病棟看護師がサポートに入るのが現状であり課題でもあります。今後は、外来における導入前教育システムの確立を目指すとともに、CKD 教育入院パスの導入などにより、より早期からの保存期治療に向けた情報提供の充実も図っていく予定です。
図6 高砂市民病院における療法選択説明までの流れ

患者背景を捉え個別指導を繰り返し、セルフケアの向上・療法選択時における自己決定のサポートを


今村 朋子 氏
(宗像医師会病院)
PD49 例、HD150 例
(2009 年7 月末現在)
 当院では、一般腎外来、保存期腎不全外来、PD 外来、血液透析室がすべて腎センター内に設置されています。まず、一般腎外来で医師と看護師の間で血清Cr 値、病状の経過、患者背景の情報交換を行い、血清Cr 値 3mg/dL を目安に一般腎外来から「保存期腎不全外来」への移動が検討されます。
 「保存期腎不全外来」の特徴として医師の診察に看護師が同席しています(図7)。その中で医師の説明、それを受けた患者の理解や受容の度合いを観察します。診察直後に看護師から患者の状態に合わせたコミュニケーションをとり、患者の話を聞いた上で個別指導や情報提供を繰り返し行います。また、患者が自分の病気を知り病状悪化を防ぐため、患者自らがセルフケアできるような関わりを持つことに留意しています。この時期の関わりが、透析治療時の自己管理・QOLの維持向上につながると期待しています。
 療法選択時にも患者の状況を観察し、患者や家族の思いを傾聴するために面談を設定し、相談を受けるなどして患者が自己決定できるよう支援しています。腎不全保存期 チームは6 名ですが、1 年ごとにチームを編成するため、患者記録、指導チェックリストを整備し、カンファレンスを重ね情報の共有に勤めています。
 今後は、地域の開業医の先生が診療されているCKD ステージ1 〜 3 の患者にも、CKD 全体への視点で教育、情報提供を行っていきたいと考えています。
図7 宗像医師会病院における「保存期腎不全外来」の看護師の役割

PDもHDも、そしてこれからは保存期も、“特別”ではなく皆で取り組むために…"


吉田 寿子 氏
(九州大学大学院
医学研究院)
PD43 例、維持HD なし
(2009 年7 月末現在)

 当院に入院してくるCKD 患者は、かなりの頻度でPD やHD を施行している患者と接する機会があります。“PD を特別な治療にしない” 取り組みをしている当院では、病棟における日常の中にPD やHD があり、まずは生の情報に触れることが患者自身による主体的な療法選択の第一歩となります。そして、医師が介入のタイミングを決め、病棟看護師が補足説明を実施する流れになっています。専任のスタッフやマニュアルはありませんが、新人からベテランまで全てのスタッフが患者のニーズに合わせた十分な情報提供と援助を行えることを目指しています。
 一方、腎臓病教室や保存期外来における看護師の介入はなく、患者が入院しない限り看護師による教育のきっかけがありません。
 そこでこの度、PD ガイドラインの発表をきっかけに外来通院中の保存期患者のデータを拾い出してみたところ、CKDステージ4、5 だけで250 名もの患者が抽出されました。スクリーニングには、膨大な時間を使って1,500 名以上の患者の電子カルテをそれぞれ開く必要があります。当院における保存期の取り組みを模索するにあたっては、それだけの人数に対応できる看護体制と、簡便なスクリーニングシステムの構築が課題であることが分かりました。
 当院がPD の診療を開始してから3 年が過ぎ、混合病棟という不利な条件下ではありましたが、現在では腎代替療法としてPD、HD そして腎移植という選択肢を全ての患者に提供することのできる施設になりつつあります。今はまだ病棟中心の体制ではありますが、PD の体制づくりで目標としたように“全てのスタッフが高い専門性持って”CKD 治療・看護に取り組むために、本日は皆さんのご発表から手がかりをいただきたいと思います(表4)。
表4 九州大学病院の現状と課題
ディスカッション−計画導入推進による成果、変化および今後の展望
CKD 患者のデータベースを整備し、個々の状況に応じた情報提供を事前に考慮する
―まずは現状把握から―
保利 PD の有用性を生かすためには患者教育を行い、計画 的に導入することが重要で、特にPD への導入は、残存腎機 能の維持される時期に導入することが望まれます。そのために まず、対象となる患者を把握しておく必要があります。どのよう な手段で対象患者の把握を行っているのか教えてください。
大室 当院は電子カルテが導入されておらず、検査科に協 力してもらっています。受診者の検査データをリストアップし てもらい、それをもとに私がエクセルに入力し、随時更新 していくというかたちで行っています。
中村 当院はオーダリングシステムでeGFR が表示されます。
平松 血清Cr 値が表示され、それをもとに手作業で eGFR を計算しています。
加曽利 CKD に看護師がかかわっている施設では、eGFR が容易に把握できるところが多いと思いますが、全国的に はまだまだで、そういった施設は3 割程度というお話もあり ます。電子カルテが導入されていない場合は、大室さんの 施設のように検査室と連携してリストアップしていく工夫も 必要になってくるでしょう。
保利 効率的な介入を行うためにも、各施設でデータベー スを整備して情報の共有化を図り、患者の状況に応じた情 報提供の仕方を事前に考慮することが大切でしょう。
患者が安心できる医療連携も重要なポイント
加曽利 計画導入を進めるにあたり、医療連携も大切な要素です。中村さんの施設では地域連携パスがあるとのことですが、詳しく教えてください。
中村 かかりつけ医に帰ることになった時に、「自分は見放されたのだ」と不安感を抱く患者が多いと思います。安心して地域に帰ってもらいたいという思いから、病診連携の看護師が中心となって地域連携パスを作成しました。パスには生活指導の項目が設定されており、看護師の指導を受けて地域に帰る仕組みになっています。看護師からも、「何かあれば電話してください」と声をかけ、安心して地域に帰ってもらえるよう配慮しています。
加曽利 平松さんの施設では、腎臓病教室で成果があったようですね。
平松 現場で透析をした際に、個別や集団の腎臓病教室の参加者は基本的な知識が身についていることに加え、「あの時の看護師さんだ」と私達の顔を覚えていてくれており、親近感を持って安心して透析を受けていただけていると強く感じています。また、実際に年間導入数が増加し、その内の計画導入も増加しています。現在、主観的ではあるのですが、こうした腎臓病教室に参加した患者の方が、そうでない方に比較して、透析導入後の自己管理が良いと感じています。今後は、こうした腎臓病教室の効果を客観的でわかりやすい指標で評価する方法を模索していきたいと思っています。
患者背景を踏まえ、PD のメリットをいかに上手に説明するか?
加曽利 今村さんの施設では、保存期外来においてCKDステージ4 の段階から積極的な情報提供を行っている様ですが、説明の工夫、コツについて教えていただけますか。
今村 “PD ファースト” という考えに基づいて説明をしていますが、「自分ではできない」と訴える患者も多いのが実情です。このようなケースには、「では奥さんはできますかね」など、別の視点から臨機応変に説明を変える工夫をしています。また、ネガティブなことを言い始めた場合には、HDで必要な5 時間の拘束時間がPD では無いことや、仕事を持っている人には「勤務時間に合わせた治療が可能ですよ」、子育て中の患者さんや高齢者には「在宅での治療が可能ですよ」と、患者背景に合わせてメリットとなる側面から前向きになれる情報をどんどん提供します。
 ただ、いずれはHD に移行しなければなりません。その部分は先生がきちんとお話ししてくれます。PD を行う5 〜
6 年間は、“ 透析患者であることを自覚する準備期間” と考えてもらえるようにしています。
保利 医師からは、「最後の最後まで腎臓を使い切って、それからHD に移っても十分なので、尿が出る期間はまずPD をしませんか」と説明しています。「PD は透析というよりも、まだ残っている腎機能をもっと維持するための保存的な治療ですよ」というように持っていったらどうでしょう。
中島 そもそも、「透析はしたくない」という気持ちを誰もが持っています。さらに、PD は自分でしなければいけないということでいっそうハードルが高くなります。こうした患者さんの気持ちを念頭に置いて、「腎機能が比較的長持ちしますよ」と説明し、PD も見学してもらいます。最近は、「長持ちするんだったらPD の方がいいかな」という患者さんが増えてきました。「透析をしたくない」という気持ちに寄り添いつつも、患者さん自身が「透析が必要となる身体」ということがわかり、透析生活している生活を前向きにイメージできるようなかかわりが大切だと実感しています。
松本 医師間で説明内容に少し差異があるような場合でも、看護師が繰り返し説明することで、その溝を埋めるのに役立っ
ています。介入のタイミングについては医師から指示がありますので、医師とのコミュニケーションが非常に重要だと思います。
田邊 医師との面談時に患者の様子を観察し、透析を完全に拒否している様子などからメンタルケアが必要と判断されたら、医師にその旨を伝え、サイコネフロロジストのサポートを要請してもらっています。 
保利 透析導入が現実味を帯びてきた段階ではメンタルケアも重要になってきますので、サイコネフロロジストという専
門の先生が院内に控えているのはとても心強いですね。
なぜ、保存期における介入が大切なのか
保利 PD ガイドラインが出たことで、保存期からの関わり の重要性が明確になりました。この点についてご意見をお 願いします。
石川 認定看護師の学校に行って初めて、「目の前の透析 患者だけ見ていたのでは真の看護はできない。もっと前の 段階から患者を知りたい」と強く思うようになりました。つ まり、透析患者を看護するには、保存期、さらにそれ以前 の時期を置いては考えられないということを学びました。透 析看護認定看護師の仲間では「私たちは腎不全看護認定 看護師だね」と話しています。保存期の段階から患者を知 らないと、良い透析看護はできないと思います。
保利 吉田さんの施設では、保存期患者への看護介入が 進んでいない状態とのことでしたが、これまでのお話を聞 いていかがですか。
吉田 九州大学病院はまだまだこれからです。保存期にお ける看護師介入の必要性を看護師自身が実感した時に大き な力となって前進していくのではないかと思っています。で すから本日のお話は非常に参考になりました。
計画導入とチーム医療が重要
保利 透析を始めればその先、何年、何十年と生活しながら継続した治療が必要です。その生涯を豊かなものにするためには、今回のガイドラインに示されたように、透析治療の「計画導入」が医学的に大変重要になります。そのためには多様性をもった患者さん個々に治療法の特徴を理解していただき、自分に合っているかどうかをじっくり判断していただく必要があります。さまざまな背景・意向を持つ患者さんに応じるためには、チームで保存期治療や情報提供を実践していく必要があります。皆さんの思いや施設の実践内容を伺って、この特集の読者の方々に多くのヒントを与えることができたのではないでしょうか。本日は有意義なご討議、本当にありがとうございました。


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